恋、煩う。

あまりにもピュアで、ふわふわとした想いを傍に置かれると、自分の混濁とした感情が浮き彫りになるようで。
彼女のそれと比べて、自分が彼を縛り付ける感情は、関係は、醜くて、どろどろとしていて、そして賤しい。
人様に自慢できるものじゃないことなんか、初めから分かっている。
それでもこうして、時々思い知らされるのだ。どうすることもできない、不毛さを。

分かるよ、とも、応援するよ、とも言えず、ただ身の内を渦巻く得体のしれない感情を、こみ上げる吐き気と共に飲み込んだ。
特に私からの返事を求めていたわけでは無かったようで、無言になってしまった私を気にもせず、彼女の瞳は微熱のような色を帯びながら、ただ松崎くんを焦がれているようだった。
やがて松崎くんが買い出しから戻り、他のメンバーも休憩から帰ってくる。
仕事に集中するフリをしながらもドキドキと嫌な動悸は治まらず、彼女の言葉がぐるぐるとリフレインしていた。


少し、気が緩み過ぎていたかもしれない。
会社に松崎くんとの関係がバレるのはご法度だ。それなのに、最近は会社の内外問わず、彼と親密な空気を作り出してしまっていた。
それを敏感に感じ取ったからこその米山さんの発言だろうし、他にも私たちの距離の近さを不思議に思っている人が居るかもしれない。
そう考えると途端に怖くなって、私はさり気なく彼から距離を取ることにした。
元々は、私がストレスに耐えきれなくなったときに、彼がその捌け口になってくれるだけの関係が始まりだった。
その時だけは上司と部下という服を脱ぎ捨てて、ただの男と女として本能のまま求めあう。
そして次の日には、夜の香りなんて一切残さずにまた正しい関係性へと戻るのだ。

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