恋、煩う。
「最近、どうしたんですか」
せめて駅に着くまで見逃してもらえれば。
その後は、適当な理由をつけてそこで別れることも出来た。だけどそんなことはお見通しだったのか、駅までの道を歩く半ばで唐突にそう切り出される。
「どうもしない、とは言わせませんよ」
誤魔化しの術は前もって封じられ、パクパクと口を閉口させながら何も言えなくなる私に、松崎くんは困ったように眉を下げた。
「……分かりやすいんだから」
黙っているうちに、無防備だった手をとられる。
ポケットにでも突っ込んでおけばよかったと思うもののもう遅い。反射で引こうとすれば手首ごとつよく握られて、逃げられそうになかった。
「沙織さんが何かを考えてるのは分かってました。それが何なのか、本当は知りたかったけど、沙織さんから言われるまで待とうと思ってた。でも……」
羽のような軽さで、掴んだ腕を引っ張られる。
ややつんのめりながら、私と彼は向き合う形になった。
そして、触れ合っていない方の手の甲が、私の頬を滑るように撫ぜる。
星屑を閉じ込めたような煌めきを放つ瞳が、悩ましげな雰囲気を漂わせてこちらを見つめ、眼前に広がる夜空のようなそれに吸い込まれるように、私もまた身動きが取れなくなる。
やがて、どことなく寂寥感を滲ませた笑みが、夜風と混ざりあって私を包み込んだ。
「沙織さんは、すぐに一人で抱え込んでしまうね」
「松崎くん……」
「物分りのいい振りをして、待ってようと思ってたけどごめんなさい。日に日に辛そうな顔になる沙織さんを、俺は見過ごせない」
頬に触れていた指先が、顎を辿り、首を擽り、身体の曲線をなぞる。
やがて徐に手首を包むように両手をとり、こちらをあやすかのごとくゆらゆらと揺りかごのように揺らした。
「ね、お願いします。何を悩んでるのか、教えてください。……きっと、俺は無関係じゃないですよね」
それくらい分かりますよ、と悪戯っぽく瞬いた視線には、微かな切なさが篭っていた。