押しかけ婚〜あなたの初恋相手の娘ですが、あなたのことがずっと好きなのは私です
第1章
「おとうさん…あかあさん…グスッ…」
いなくなった両親恋しさに一人布団の中で涙を流す。面倒を見てくれている祖父母の前では言えないのが幼心にもわかっていた。
だからこうやって夜になると隠れて泣いていた。
十歳の時、両親が交通事故で亡くなった。
父の会社で開かれた会社設立五十年のパーティーの帰りだった。
帰りが遅くなるからと、母方の大島の祖母が面倒をみにきてくれた。
「遅くなったけどお母さんたち今から帰るからね。おばあちゃんの言うことをよく聞いて、お利口さんにしているのよ」
「友梨亜、お利口さんだよ。だからお土産買ってきてね」
「わかったわ。じゃあ、おばあちゃんに代わって」
「うん」
母に言われて受話器を祖母に渡した。
「もしもし、うん、慌てずゆっくり安全運転でね」
祖母が電話越しに母と話しているのを聞きながら、私は自分の部屋に行って布団に潜り込んだ。
そして寝て起きたら、両親は帰らぬ人になっていた。
雨で視界が悪く、狭い道でトラックと正面衝突し、父は即死。母も搬送先の病院に運ばれたが、知らせを受けた私達が駆けつける前に亡くなった。
両親が乗っていた車の後部座席には、私がお土産にとねだったうさぎのぬいぐるみが血塗れになっていた。
難しいことは私にはわからなかったが、父方の祖父とはもともと仲が悪かったらしく、父が大学生の時に母親が亡くなってからは、さらに疎遠になったという。
そういうわけで、突然両親を失った私は、隣町に住む母の実家に引き取られた。
友人とも別れ、転校までした私はそれでも一人娘だった母を亡くし、意気消沈する間もなくいきなり孫を引き取る羽目になった祖父母に心配をかけまいと、毎晩部屋で涙を流すようになった。
「友梨亜、泣いてるのか?」
「しいちゃん」
祖父母とは違う大きく温かい手で私の頭を撫でたのは、大澤真嗣。私が「しいちゃん」と呼んでいる母の従姉弟だった。
従姉弟と言っても母より十歳は年下で、彼の母親が祖父の妹だった。両親が海外赴任で日本を離れることになり、暫くの間、大島の家で暮していたこともあり、母を姉のように慕っていた。
その後、彼の両親の海外赴任が延びたこともあり、彼は結局両親と一緒に暮らすため大島家を出たのだった。
「お前…そうか、じいちゃんたちに遠慮して…」
私が隠れて泣いている理由を察してしいちゃんはポンポンと頭を軽く叩いた。
しいちゃんの両親は相変わらず海外を転々としていて、日本の大学に入るために彼は一人日本に帰国していた。大学が離れていることと、さすがに一人暮らし出来る年齢のため、今度は大島の家にも住むことはなかったが、休みになると両親を亡くしたばかりの私を心配して、遊びに来てくれていた。
「偉いな。でも、お前が泣いたって誰も責めたりしない。むしろ我慢しているのを知ったら、じいちゃんたちが悲しむ」
「でも…」
「じゃあ、泣きたかったらおれの前で泣け。オレの前では我慢することないぞ」
戸惑う私に向かってそう言うと、彼は両手を広げて「さあ」と私に胸を開いた。
「うえ〜ん、しいちゃん」
言われるままに私は彼の胸に飛び込み、泣いた。
長年外国暮らしをしていたせいか、彼はフェミニストの素質がある。
十歳になったばかりの私にそんなことはわかるはずもないが、普通十歳相手にもう少し子ども扱いしてもいいものを、彼はレディとして接してくれた。背が高く、スラリとしていて、ハンサム。少女が王子様と夢見て憧れるには十分だった。
いなくなった両親恋しさに一人布団の中で涙を流す。面倒を見てくれている祖父母の前では言えないのが幼心にもわかっていた。
だからこうやって夜になると隠れて泣いていた。
十歳の時、両親が交通事故で亡くなった。
父の会社で開かれた会社設立五十年のパーティーの帰りだった。
帰りが遅くなるからと、母方の大島の祖母が面倒をみにきてくれた。
「遅くなったけどお母さんたち今から帰るからね。おばあちゃんの言うことをよく聞いて、お利口さんにしているのよ」
「友梨亜、お利口さんだよ。だからお土産買ってきてね」
「わかったわ。じゃあ、おばあちゃんに代わって」
「うん」
母に言われて受話器を祖母に渡した。
「もしもし、うん、慌てずゆっくり安全運転でね」
祖母が電話越しに母と話しているのを聞きながら、私は自分の部屋に行って布団に潜り込んだ。
そして寝て起きたら、両親は帰らぬ人になっていた。
雨で視界が悪く、狭い道でトラックと正面衝突し、父は即死。母も搬送先の病院に運ばれたが、知らせを受けた私達が駆けつける前に亡くなった。
両親が乗っていた車の後部座席には、私がお土産にとねだったうさぎのぬいぐるみが血塗れになっていた。
難しいことは私にはわからなかったが、父方の祖父とはもともと仲が悪かったらしく、父が大学生の時に母親が亡くなってからは、さらに疎遠になったという。
そういうわけで、突然両親を失った私は、隣町に住む母の実家に引き取られた。
友人とも別れ、転校までした私はそれでも一人娘だった母を亡くし、意気消沈する間もなくいきなり孫を引き取る羽目になった祖父母に心配をかけまいと、毎晩部屋で涙を流すようになった。
「友梨亜、泣いてるのか?」
「しいちゃん」
祖父母とは違う大きく温かい手で私の頭を撫でたのは、大澤真嗣。私が「しいちゃん」と呼んでいる母の従姉弟だった。
従姉弟と言っても母より十歳は年下で、彼の母親が祖父の妹だった。両親が海外赴任で日本を離れることになり、暫くの間、大島の家で暮していたこともあり、母を姉のように慕っていた。
その後、彼の両親の海外赴任が延びたこともあり、彼は結局両親と一緒に暮らすため大島家を出たのだった。
「お前…そうか、じいちゃんたちに遠慮して…」
私が隠れて泣いている理由を察してしいちゃんはポンポンと頭を軽く叩いた。
しいちゃんの両親は相変わらず海外を転々としていて、日本の大学に入るために彼は一人日本に帰国していた。大学が離れていることと、さすがに一人暮らし出来る年齢のため、今度は大島の家にも住むことはなかったが、休みになると両親を亡くしたばかりの私を心配して、遊びに来てくれていた。
「偉いな。でも、お前が泣いたって誰も責めたりしない。むしろ我慢しているのを知ったら、じいちゃんたちが悲しむ」
「でも…」
「じゃあ、泣きたかったらおれの前で泣け。オレの前では我慢することないぞ」
戸惑う私に向かってそう言うと、彼は両手を広げて「さあ」と私に胸を開いた。
「うえ〜ん、しいちゃん」
言われるままに私は彼の胸に飛び込み、泣いた。
長年外国暮らしをしていたせいか、彼はフェミニストの素質がある。
十歳になったばかりの私にそんなことはわかるはずもないが、普通十歳相手にもう少し子ども扱いしてもいいものを、彼はレディとして接してくれた。背が高く、スラリとしていて、ハンサム。少女が王子様と夢見て憧れるには十分だった。
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