押しかけ婚〜あなたの初恋相手の娘ですが、あなたのことがずっと好きなのは私です
真奈さんが帰ってきてから、しいちゃんは本格的に海外の仕事に向けて動き出した。
新しい仕事については、動画と静止画の両方で撮影して回るため、スタッフも多いそうだ。
しいちゃんは制止画の設営スタッフ。メンバーは日本人だけでないらしく、海外経験があり、英語以外にも中国語とフランス語が話せるしいちゃんは、通訳スタッフも兼ねている。
日本での仕事も前倒しで取り組んでいるため、あちこちを飛び回っている。私も大学受験が控えていて、すれ違いの日々が続いていた。
夜は早く寝て、朝早く起きてという勉強法を取っていたため、毎晩帰ってくるしいちゃんにお帰りなさいは言えなかったが、朝起きて、そっと彼の寝室のドアを開いて、ドアのところから彼の様子をうかがう。
疲れて泥のように眠るしいちゃんの寝顔を間近で見られるのは、私だけの特権だと思っている。それも後もう少しで見られなくなる。
同居を始める時に夕食の用意はしなくていいと言われていたが、休みの日につくる大量の常備菜がいつの間にか減っているのを見ると、思わずガッツポーズをしたくなる。
最近は真奈さんの分も作っているので、作る量は増えたが受験勉強のいい気分転換になっている。
私の料理は料理上手だったおばあちゃんの直伝。しいちゃんの舌に合わないはずがない。日頃はおしゃれなカフェやミシュランの星が付いた店につきあいで行っているしいちゃんには、ほっとする味なんだろう。
『ごちそうさま、美味しかった』
食べきった後のタッパーウェアを綺麗に洗い、冷蔵庫のホワイトボードに必ずそう書いてくれていた。
「あの、片桐さん」
そろそろお惣菜のストックが無くなる。明日の休みは朝から作り置きをしよう。そう思って学校帰りにスーパーに寄って色々買い込んできた。学校の鞄とレジ袋2つをバランスを考えて両手に提げてマンションの敷地に入ったところで、名前を呼ばれた。
「え?」
立ち止まるとエントランスの柱の陰から見覚えのある人物が姿を現した。
「生徒会長?」
「もとだよ。もう引退したから」
現れたのはもと生徒会長で、同級生の成宮拓人(なるみやたくと)だった。背が高くて勉強も出来て、運動も得意。おまけに○ャニーズみたいに顔も整っている。彼とは三年生になって同じクラスになった。今の学校に転校して日も浅い私でも知っている数少ない同級生。
なぜ彼がここにいるのか。彼の家がどこにあるのかは知らないが、私が乗る電車の駅では見かけたことがない。ということは、彼の家はこの近くではないはず。
「なぜこんな所に?」
「ちょっと話をしたくて」
その言葉に警戒をする。
「この前のことなら、はっきりお断りしましたよね」
「うん、わかっている」
彼には一ヶ月前、付き合って欲しいと告白された。でも、私はいつものように断った。
「でも、このままだと勉強が手に付かないんだ。一度でいいから僕とデートしてくれないかな。そしたら諦めるから」
「いやです。私にはそんな時間も余裕もありません」
レジ袋が手に食い込む。いくら冬とは言え、冷凍のシーフードミックスや店の人に三枚に卸してもらった鰺がある。それにしいちゃんが後どれくらいで出発するかわからないので、しいちゃんが家にいる時には出来るだけ家にいたい。
そうでなくても、好きでも無い人となぜ思い出作りのためにデートをしなければならないのか。しいちゃんとだってきちんとしたデートはしたことがないのに。
「わかっている。僕たちは受験生だし、でも高校生活の思い出に」
「友梨亜、こんなところで何をしているんだ?」
「あ、しいちゃん」
成宮君の後ろからしいちゃんが声をかけてきた。
「友達?」
制服姿の成宮君から私に視線を向けて訊ねた。成宮君も背は高い方だが、傍に来るとしいちゃんの方がまだ高い。
「う、うん。同じクラスの成宮君」
「片桐さん、この人、誰?」
不意に現れたしいちゃんと私の関係が何なのか成宮君ははかりかね、戸惑いを隠せないようだった。
「えっと彼は・・・母の親戚で」
「親戚の人?」
「重いだろ、荷物。オレが持つよ」
「あ、ありがとう」
しいちゃんはさりげなく私の両手から荷物を引き上げる。こういう気遣いはさすが外国育ちでスマートだなと思う。
「話があるなら中に入ってもらう?」
「え、う、ううん、大丈夫、だよね、若宮君」
話なんて、告白されてたのを断ったのに、それでも思い出にデートして欲しいと言われているなんて言えない。しいちゃんが現れてくれて助かった。
「ふうん、若宮君って言うのか。君、なかなか男前だね、もしかして彼氏だったり」
「え」
しいちゃんの勘違いを思いっきり全否定する。
「ち、違うよ。彼はクラスメート、ね、そうだよね若宮君」
しいちゃんに荷物を持ってもらったので、何も持っていない手を思いっきりパタパタと動かす。
「え、あ、う、うん」
嘘は言っていない。告白されてデートにも誘われたけど、彼氏じゃない。
新しい仕事については、動画と静止画の両方で撮影して回るため、スタッフも多いそうだ。
しいちゃんは制止画の設営スタッフ。メンバーは日本人だけでないらしく、海外経験があり、英語以外にも中国語とフランス語が話せるしいちゃんは、通訳スタッフも兼ねている。
日本での仕事も前倒しで取り組んでいるため、あちこちを飛び回っている。私も大学受験が控えていて、すれ違いの日々が続いていた。
夜は早く寝て、朝早く起きてという勉強法を取っていたため、毎晩帰ってくるしいちゃんにお帰りなさいは言えなかったが、朝起きて、そっと彼の寝室のドアを開いて、ドアのところから彼の様子をうかがう。
疲れて泥のように眠るしいちゃんの寝顔を間近で見られるのは、私だけの特権だと思っている。それも後もう少しで見られなくなる。
同居を始める時に夕食の用意はしなくていいと言われていたが、休みの日につくる大量の常備菜がいつの間にか減っているのを見ると、思わずガッツポーズをしたくなる。
最近は真奈さんの分も作っているので、作る量は増えたが受験勉強のいい気分転換になっている。
私の料理は料理上手だったおばあちゃんの直伝。しいちゃんの舌に合わないはずがない。日頃はおしゃれなカフェやミシュランの星が付いた店につきあいで行っているしいちゃんには、ほっとする味なんだろう。
『ごちそうさま、美味しかった』
食べきった後のタッパーウェアを綺麗に洗い、冷蔵庫のホワイトボードに必ずそう書いてくれていた。
「あの、片桐さん」
そろそろお惣菜のストックが無くなる。明日の休みは朝から作り置きをしよう。そう思って学校帰りにスーパーに寄って色々買い込んできた。学校の鞄とレジ袋2つをバランスを考えて両手に提げてマンションの敷地に入ったところで、名前を呼ばれた。
「え?」
立ち止まるとエントランスの柱の陰から見覚えのある人物が姿を現した。
「生徒会長?」
「もとだよ。もう引退したから」
現れたのはもと生徒会長で、同級生の成宮拓人(なるみやたくと)だった。背が高くて勉強も出来て、運動も得意。おまけに○ャニーズみたいに顔も整っている。彼とは三年生になって同じクラスになった。今の学校に転校して日も浅い私でも知っている数少ない同級生。
なぜ彼がここにいるのか。彼の家がどこにあるのかは知らないが、私が乗る電車の駅では見かけたことがない。ということは、彼の家はこの近くではないはず。
「なぜこんな所に?」
「ちょっと話をしたくて」
その言葉に警戒をする。
「この前のことなら、はっきりお断りしましたよね」
「うん、わかっている」
彼には一ヶ月前、付き合って欲しいと告白された。でも、私はいつものように断った。
「でも、このままだと勉強が手に付かないんだ。一度でいいから僕とデートしてくれないかな。そしたら諦めるから」
「いやです。私にはそんな時間も余裕もありません」
レジ袋が手に食い込む。いくら冬とは言え、冷凍のシーフードミックスや店の人に三枚に卸してもらった鰺がある。それにしいちゃんが後どれくらいで出発するかわからないので、しいちゃんが家にいる時には出来るだけ家にいたい。
そうでなくても、好きでも無い人となぜ思い出作りのためにデートをしなければならないのか。しいちゃんとだってきちんとしたデートはしたことがないのに。
「わかっている。僕たちは受験生だし、でも高校生活の思い出に」
「友梨亜、こんなところで何をしているんだ?」
「あ、しいちゃん」
成宮君の後ろからしいちゃんが声をかけてきた。
「友達?」
制服姿の成宮君から私に視線を向けて訊ねた。成宮君も背は高い方だが、傍に来るとしいちゃんの方がまだ高い。
「う、うん。同じクラスの成宮君」
「片桐さん、この人、誰?」
不意に現れたしいちゃんと私の関係が何なのか成宮君ははかりかね、戸惑いを隠せないようだった。
「えっと彼は・・・母の親戚で」
「親戚の人?」
「重いだろ、荷物。オレが持つよ」
「あ、ありがとう」
しいちゃんはさりげなく私の両手から荷物を引き上げる。こういう気遣いはさすが外国育ちでスマートだなと思う。
「話があるなら中に入ってもらう?」
「え、う、ううん、大丈夫、だよね、若宮君」
話なんて、告白されてたのを断ったのに、それでも思い出にデートして欲しいと言われているなんて言えない。しいちゃんが現れてくれて助かった。
「ふうん、若宮君って言うのか。君、なかなか男前だね、もしかして彼氏だったり」
「え」
しいちゃんの勘違いを思いっきり全否定する。
「ち、違うよ。彼はクラスメート、ね、そうだよね若宮君」
しいちゃんに荷物を持ってもらったので、何も持っていない手を思いっきりパタパタと動かす。
「え、あ、う、うん」
嘘は言っていない。告白されてデートにも誘われたけど、彼氏じゃない。