押しかけ婚〜あなたの初恋相手の娘ですが、あなたのことがずっと好きなのは私です
「し、しいちゃん、疲れたでしょ、真奈おばさんが待ってるから早く中に入ろう」
それからしいちゃんの背後に回って背中を思いっきり押す。
「あ、片桐さん」
「じゃあ、若宮君、気をつけて帰ってね、バイバイ」
無理矢理話を打ち切って、マンションのエントランスにしいちゃんを押していく。
「バ、バイバイ」
展開についていけないまま、若宮君はマンションから離れ、二度こちらを振り返って帰って行った。
「若宮君だっけ。彼、学校でモテるだろ? オレ、邪魔しちゃったかな」
カードキーを翳して住民スペースへの扉を開ける。
「え、なんで?」
開いた自動ドアを通り抜けながら、私は訊ね返した。
「ごめん、実はデートって声が聞こえたから」
「違う。若宮君とはそんな関係じゃない」
「でも・・・」
ロビーを抜けてエレベーターに向かう。3機あるエレベーターはどれも上にあるので、ボタンを押してエレベーターが降りてくるのを待った。
「受験生でも息抜きは必要だろ、せっかく誘ってくれたのに」
「好きじゃ無い相手と出かけても面白くない!」
しいちゃんから、誰かとデートするように言われ、ショックでつい言い方がきつくなった。
後ろからマンションの住人が近づいてきたので、慌てて顔をそらす。
「こんばんは」
「こんばんは」
若い女性は、しいちゃんの背の高さと格好良さにポゥッとなって軽く挨拶する。しいちゃんも外面よく微笑むものだから始末が悪い。それもあって私は更にムスッとする。
「それは、悪かった。ごめん」
私が怒ったのがわかり、小さな声でしいちゃんが謝った。
嫉妬すらしてもらえない。これが私としいちゃんの現状。
俯いたまま、降りてきたエレベーターにしいちゃんと、その女性と三人で乗り込んだ。
彼女は七階、私達は最上階の二十階。最上階は他の階より広い分、値段は高いし部屋数は少ない。
「さようなら」
「さようなら」
七階で女性はしいちゃんに向かって挨拶をして降りていき、しいちゃんが返事をする。
腹が立って、彼女が降りるとすぐに扉を閉めるボタンを押した。
「これ、何を作ってくれるんだ?」
買い物袋の中の材料を見て聞いてくる。沈黙が耐えられなくなったんだろう。
「人参シリシリと砂肝のピーマン炒め」
「え?」
それは嘘。人参と砂肝、ピーマンはしいちゃんの嫌いな食材。私は好きだからたまに作るけど、しいちゃんは決して手を出さないのを知っている。
「意地悪だな。ピーマンも砂肝も買ってないだろ」
私が意地の悪いことを言っていることは、しいちゃんもすぐにわかった。
「でも真奈さんが食べたいって言ったらつくるよ」
「母さんか…仲良くやっているみたいだね」
「だって真奈さんだもん」
しいちゃんのお母さんだし、彼女は母親じゃなく、友達みたいな感じ。私より流行に敏感で、おしゃれで話題も豊富。ずっとお手伝いさんのいる生活だったから、家事は不得意だけどグルメだから美味しいものを追求する探究心はあって、今では二人でキッキンに立つこともある。
「安心したよ。これでいつでもオレがいなくなっても大丈夫だ」
「え?」
「ここじゃ何だから、母さんのところへ行こう。話がある」
廊下で話すことじゃないと、荷物を持ったまま大澤家の表札のある方へ歩いていく。
「出来れば友莉亜の受験が終わるまでと思っていたけど、先に現地入りした先生から準備が出来たら一日でも早く来てくれって言われてて」
いよいよその時が来た。
それからしいちゃんの背後に回って背中を思いっきり押す。
「あ、片桐さん」
「じゃあ、若宮君、気をつけて帰ってね、バイバイ」
無理矢理話を打ち切って、マンションのエントランスにしいちゃんを押していく。
「バ、バイバイ」
展開についていけないまま、若宮君はマンションから離れ、二度こちらを振り返って帰って行った。
「若宮君だっけ。彼、学校でモテるだろ? オレ、邪魔しちゃったかな」
カードキーを翳して住民スペースへの扉を開ける。
「え、なんで?」
開いた自動ドアを通り抜けながら、私は訊ね返した。
「ごめん、実はデートって声が聞こえたから」
「違う。若宮君とはそんな関係じゃない」
「でも・・・」
ロビーを抜けてエレベーターに向かう。3機あるエレベーターはどれも上にあるので、ボタンを押してエレベーターが降りてくるのを待った。
「受験生でも息抜きは必要だろ、せっかく誘ってくれたのに」
「好きじゃ無い相手と出かけても面白くない!」
しいちゃんから、誰かとデートするように言われ、ショックでつい言い方がきつくなった。
後ろからマンションの住人が近づいてきたので、慌てて顔をそらす。
「こんばんは」
「こんばんは」
若い女性は、しいちゃんの背の高さと格好良さにポゥッとなって軽く挨拶する。しいちゃんも外面よく微笑むものだから始末が悪い。それもあって私は更にムスッとする。
「それは、悪かった。ごめん」
私が怒ったのがわかり、小さな声でしいちゃんが謝った。
嫉妬すらしてもらえない。これが私としいちゃんの現状。
俯いたまま、降りてきたエレベーターにしいちゃんと、その女性と三人で乗り込んだ。
彼女は七階、私達は最上階の二十階。最上階は他の階より広い分、値段は高いし部屋数は少ない。
「さようなら」
「さようなら」
七階で女性はしいちゃんに向かって挨拶をして降りていき、しいちゃんが返事をする。
腹が立って、彼女が降りるとすぐに扉を閉めるボタンを押した。
「これ、何を作ってくれるんだ?」
買い物袋の中の材料を見て聞いてくる。沈黙が耐えられなくなったんだろう。
「人参シリシリと砂肝のピーマン炒め」
「え?」
それは嘘。人参と砂肝、ピーマンはしいちゃんの嫌いな食材。私は好きだからたまに作るけど、しいちゃんは決して手を出さないのを知っている。
「意地悪だな。ピーマンも砂肝も買ってないだろ」
私が意地の悪いことを言っていることは、しいちゃんもすぐにわかった。
「でも真奈さんが食べたいって言ったらつくるよ」
「母さんか…仲良くやっているみたいだね」
「だって真奈さんだもん」
しいちゃんのお母さんだし、彼女は母親じゃなく、友達みたいな感じ。私より流行に敏感で、おしゃれで話題も豊富。ずっとお手伝いさんのいる生活だったから、家事は不得意だけどグルメだから美味しいものを追求する探究心はあって、今では二人でキッキンに立つこともある。
「安心したよ。これでいつでもオレがいなくなっても大丈夫だ」
「え?」
「ここじゃ何だから、母さんのところへ行こう。話がある」
廊下で話すことじゃないと、荷物を持ったまま大澤家の表札のある方へ歩いていく。
「出来れば友莉亜の受験が終わるまでと思っていたけど、先に現地入りした先生から準備が出来たら一日でも早く来てくれって言われてて」
いよいよその時が来た。