押しかけ婚〜あなたの初恋相手の娘ですが、あなたのことがずっと好きなのは私です
その週末、私はしいちゃんを避けて過ごした。しいちゃんの方は、帰国したばかりでこれから仕事の編集作業にかかるとかで、土日も関係なく忙しくしていて、私は私で友達と約束があったりしていたのもある。

「おはようございます」
「おはよう、あ、片桐さん」

月曜日、出勤し警備員の堀さんに挨拶をすると、ちょっとちょっとと呼び止められた。

「何か?」
「これなんだけど、どうしても片桐さんに渡してくれって頼まれたんだよ」

そう言って堀さんはチョコレートの箱をくれた。それは私が好きなショコラティエのチョコレートボックスで、その大きさからひと箱一万円はするものだった。

「堀さん、これ誰から?」
「え、彼氏さんから預かったよ」
「彼氏? 私に彼氏なんていませんよ」
「騙されないよ。きっとそう言うだろうって彼氏も言ってたよ。だめだよ喧嘩は。彼も仕事があるんだから少しくらい忙しくて会えないからって責めたら可哀想だ」
「あの、本当に・・・」
「悪いけど、わたしももう仕事があがりなんだ。じゃあね、渡したから。早く仲直りするんだよ」

堀さんは私にチョコレートボックスを押しつけて、さっさと行ってしまった。

「おはよう、片桐さん。わ、それって超高級なチョコレートだよね」
「あ、おはようございます、遠藤さん」
「しかもそれこの前発売された限定品でしょ。すごく手に入りにくいって昨日テレビで言ってたわ」
「あの、それが・・・」

私はさっきのことについて彼女に説明した。

「え、何それ、怖いんだけど」
「そうだよね。誰がくれたかわからないし、私の彼氏なんて」
「えっと、それはとにかく今夜堀さんに言って私のじゃありませんって返したらどうかな。何が入っているかわからないし、また堀さんに届けにくるかもしれなし」
「そ、そうだね」

そのチョコレートはとりあえずロッカーに入れて、夜に返すことにした。
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