押しかけ婚〜あなたの初恋相手の娘ですが、あなたのことがずっと好きなのは私です
私が十四才になった時、祖父が病気になった。
娘を失い、その孫である私を養うため、彼は自分の体調不良を隠し、結果、倒れた時にはもう手遅れだった。
そしてわすが一年の闘病生活のうちに、祖父はこの世を去り、私と祖母だけになった。
ちょうどその時、しいちゃんの両親も一時帰国し、祖母は彼らに私の養育権を託した。
ただ実際は彼らもまだ外国にいるため、しいちゃんが連絡役になった。
しいちゃんは大学を卒業し、モデルの仕事と並行してカメラの勉強を始めていた。
カメラマンの助手をしながらモデルの仕事もこなし、日本どころか外国を飛び回る日々が続き、滅多に顔を合わせることが無くなった。
相変わらず私は彼のことが好きだったが、年々母に似てくる私を見るしいちゃんが辛そうで、私が父に似ていたら、彼はあんなに辛そうな顔で私を見なかっただろうか。
そう考え、髪を短く切り、中学はテニス部に入って真っ黒に日焼けした。
そして幼い時のように「しいちゃん大好き!」とは言わなくなった。
それでも私の中には彼への想いが消えることはなかった。
そしてそのニ年後、私が修学旅行から帰ってくると、祖母が居間で倒れていた。
脳出血だったが発見が遅れたため、私が救急車を呼んで病院に辿り着いた時には、祖母はもう意識がなく、三日間昏睡状態が続いた後、そのまま息を引き取った。
「友梨亜、大丈夫か?」
初七日が終わり、人のいなくなった仏壇の前に座り込んでいる私に、しいちゃんが尋ねた。
十六歳で両親、祖父、そして祖母と次々と亡くし、見送ってきた。その度に味合う喪失感を埋めるように、ずっと側にいてくれたのはしいちゃんだった。
救急車を呼んで、近くの病院に搬送され祖母が処置を受けている間、ずっと私は後悔に苛まれていた。
修学旅行に行く前から、祖母は頭痛を訴えていた。
心配する私に、薬を呑んだから大丈夫、大事な学校の行事だから、楽しんできてね。
そう祖母は言っていた。
どうして医者に診てもらってと言わなかったのか。
もし病院に行っていたら、祖母は助かったのでは。
二泊三日の沖縄は楽しかった。
楽しかったからこそ、罪悪感が私を押し潰した。
明日帰るからねと、電話をしたのが最後だった。
「うん」
虚ろな返事をする。大事な人たちが手の隙間から次々と零れ落ちる砂のように消えていく。
次はしいちゃんかも知れない。
そう思うと怖かった。
私がこの執着を捨てたら、彼を失わずに済むのだろうか。
「無理するな」
隣に座り私の手をそっと握る。大きくて温かい手が、彼が生きていることを思い知らせてくれる。
「友達、何人かお葬式に来てくれていたな」
「うん」
「男の子もいたけど、彼氏か?」
一瞬、そうだと言ったら彼はどんな顔がするだろうかと、そんな考えが浮かんだ。
それが嫉妬だったらどれだけ良かったか。
「違うよ。一緒に来てた子の彼氏とその友達。時々グループで遊んだり試験勉強を一緒にしたりしてるの」
でも勇気が出なかった。だけどそうやって聞いてくるしいちゃんの顔は、昔と変わらない。あくまでも年上の親戚の顔だった。
「そうか」
「彼氏が…いた方が良かった?」
私が好きな人はあなただから、他の男性なんて関係ない。そう言えたら…でもそんなことを言ったら、きっとしいちゃんは私から距離を置いてしまう。
「いた方が良かったかどうかはわからないけど、いれば寂しさが少しは紛れるかなと…しかしいないのか友莉亜みたいな可愛い子をほっとくなんて、お前の周りの男は見る目がないな」
「単に告白してくる子が私のタイプじゃなかったから、断ってるだけだよ」
それは嘘じゃない。高校に入ってから通学の電車で出逢う他校生や、先輩、同級生など、5人から告白された。
でも私の答えはいつも同じ。
『ごめんなさい。好きな人がいるから』
「なんだ、やっぱりモテるんだ。そうだろうそうだろう。友莉亜は菫さんに似て美人だもんな」
「そんなことないよ」
確かにお母さんは美人だった。でもお母さんに似ていたって、少しも嬉しくない。しいちゃんは私を恋愛対象として見てくれないなら、美人だろうが、ブスだろうが、痩せていようが太っていようがどうでもよかった。
娘を失い、その孫である私を養うため、彼は自分の体調不良を隠し、結果、倒れた時にはもう手遅れだった。
そしてわすが一年の闘病生活のうちに、祖父はこの世を去り、私と祖母だけになった。
ちょうどその時、しいちゃんの両親も一時帰国し、祖母は彼らに私の養育権を託した。
ただ実際は彼らもまだ外国にいるため、しいちゃんが連絡役になった。
しいちゃんは大学を卒業し、モデルの仕事と並行してカメラの勉強を始めていた。
カメラマンの助手をしながらモデルの仕事もこなし、日本どころか外国を飛び回る日々が続き、滅多に顔を合わせることが無くなった。
相変わらず私は彼のことが好きだったが、年々母に似てくる私を見るしいちゃんが辛そうで、私が父に似ていたら、彼はあんなに辛そうな顔で私を見なかっただろうか。
そう考え、髪を短く切り、中学はテニス部に入って真っ黒に日焼けした。
そして幼い時のように「しいちゃん大好き!」とは言わなくなった。
それでも私の中には彼への想いが消えることはなかった。
そしてそのニ年後、私が修学旅行から帰ってくると、祖母が居間で倒れていた。
脳出血だったが発見が遅れたため、私が救急車を呼んで病院に辿り着いた時には、祖母はもう意識がなく、三日間昏睡状態が続いた後、そのまま息を引き取った。
「友梨亜、大丈夫か?」
初七日が終わり、人のいなくなった仏壇の前に座り込んでいる私に、しいちゃんが尋ねた。
十六歳で両親、祖父、そして祖母と次々と亡くし、見送ってきた。その度に味合う喪失感を埋めるように、ずっと側にいてくれたのはしいちゃんだった。
救急車を呼んで、近くの病院に搬送され祖母が処置を受けている間、ずっと私は後悔に苛まれていた。
修学旅行に行く前から、祖母は頭痛を訴えていた。
心配する私に、薬を呑んだから大丈夫、大事な学校の行事だから、楽しんできてね。
そう祖母は言っていた。
どうして医者に診てもらってと言わなかったのか。
もし病院に行っていたら、祖母は助かったのでは。
二泊三日の沖縄は楽しかった。
楽しかったからこそ、罪悪感が私を押し潰した。
明日帰るからねと、電話をしたのが最後だった。
「うん」
虚ろな返事をする。大事な人たちが手の隙間から次々と零れ落ちる砂のように消えていく。
次はしいちゃんかも知れない。
そう思うと怖かった。
私がこの執着を捨てたら、彼を失わずに済むのだろうか。
「無理するな」
隣に座り私の手をそっと握る。大きくて温かい手が、彼が生きていることを思い知らせてくれる。
「友達、何人かお葬式に来てくれていたな」
「うん」
「男の子もいたけど、彼氏か?」
一瞬、そうだと言ったら彼はどんな顔がするだろうかと、そんな考えが浮かんだ。
それが嫉妬だったらどれだけ良かったか。
「違うよ。一緒に来てた子の彼氏とその友達。時々グループで遊んだり試験勉強を一緒にしたりしてるの」
でも勇気が出なかった。だけどそうやって聞いてくるしいちゃんの顔は、昔と変わらない。あくまでも年上の親戚の顔だった。
「そうか」
「彼氏が…いた方が良かった?」
私が好きな人はあなただから、他の男性なんて関係ない。そう言えたら…でもそんなことを言ったら、きっとしいちゃんは私から距離を置いてしまう。
「いた方が良かったかどうかはわからないけど、いれば寂しさが少しは紛れるかなと…しかしいないのか友莉亜みたいな可愛い子をほっとくなんて、お前の周りの男は見る目がないな」
「単に告白してくる子が私のタイプじゃなかったから、断ってるだけだよ」
それは嘘じゃない。高校に入ってから通学の電車で出逢う他校生や、先輩、同級生など、5人から告白された。
でも私の答えはいつも同じ。
『ごめんなさい。好きな人がいるから』
「なんだ、やっぱりモテるんだ。そうだろうそうだろう。友莉亜は菫さんに似て美人だもんな」
「そんなことないよ」
確かにお母さんは美人だった。でもお母さんに似ていたって、少しも嬉しくない。しいちゃんは私を恋愛対象として見てくれないなら、美人だろうが、ブスだろうが、痩せていようが太っていようがどうでもよかった。