押しかけ婚〜あなたの初恋相手の娘ですが、あなたのことがずっと好きなのは私です
「おばあちゃんも、じいさんが亡くなってから、自分が死んだら友莉亜がどうなるか、それだけを心配していた」
「おばあちゃんが…私、最後まで心配ばかりさせてたんだね」
「そんなこと言うな。大人が子供の心配をするのは当たり前だ。それにお前は勉強もできるし、家の手伝いもちゃんとするし、何よりおばあちゃんたちをとても大事にしていた。もっと我儘を言ったりしても良かったのに、反抗期もなく、ずっとおばあちゃんたちの自慢の孫だった」
勉強は嫌いじゃなかった。大学まで進学するかは決めていなかったが、勉強をして知識を身につけることは将来邪魔にはならないのはわかっていた。
それに、私が何か人から後ろ指を差されるようなことをして、おばあちゃんたちを悲しませたくなかった。何かあって、「やっぱり親のいない子は」とか言われたら、おばあちゃんたちが悲しむと思った。
子に先立たれて情けない。変わってやれるものなら、私が変わってやりたかった。
おばあちゃんたちが仏壇の前でそう言っていたのを何度か耳にした。
「実は友莉亜の両親が遺してくれた貯金と、生命保険金、それからじいちゃんたちが友莉亜のために遺してくれたお金と、二人の保険金で、かなりのお金がお前名義の通帳にある」
しいちゃんが私の名前が書かれた通帳を二つ取り出した。
「ひとつは菫さんたちが友莉亜のために掛けていた学資保険が入っている。そこに毎月おじいさんたちがコツコツ積み立ててくれていた。もうひとつは生命保険金やら諸々…これだけあれば、好きな大学に行ける」
毎月少しずつ入金があるものの、一度も引き出されることなく丸い数字が並んでいる。
「それで、この家を処分して、そのお金で都心でマンションを買おうと思う。足りない分はじいちゃんたちの保険金を使って」
通帳から顔を上げてしいちゃんを見る。
「オレの両親もさ来年仕事を引退して日本に戻ってくる。その時に住む用に部屋を用意してくれとも言われていてるんだ」
しいちゃんは祖母が亡くなる前からご両親にマンション購入について相談を持ちかけられていて、既にいくつか候補は見つけていると言った。もし良かったらその内で隣同士で買える物件を探すつもりだと言った。
「もちろんちゃんとした後見人はオレの両親だけど、まだ後一年は日本に帰ってこないし、一番友莉亜の傍にいるのはオレだから、頼りないかも知れないけど、オレと一緒に暮らすか?」
「しいちゃんと?」
私はドキドキし始めた心臓の鼓動がしいちゃんに聞かれるんじゃないかと、胸の前でぎゅっと拳を握り締めた。
「まあ、オレと一緒とか友莉亜は嫌かも知れないし、学校も変わることになるし、大変だろうけど、オレも仕事のことがあって…」
「いいよ」
「え?」
「しいちゃんがいいと思うなら、私はそれでいい」
「え、そうか…なら、その話で進める。明日すぐにとかは無理だから、まだ当分はここに住む必要はあるが、なにるべく早く引っ越せるようにするから、暫くはお隣に友莉亜のこと、頼んでおくよ」
「わかった」
友達と別れるのは寂しいが、しいちゃんと一緒に住めるということが私には重要だった。
高校に入ってからは、私はしいちゃんが好き好き攻撃をやめていた。
子どもの好きは信頼を寄せている相手にも言えることだが、成長してからものそれはもう異性として好意を抱いていると思われ、かえってしいちゃんに警戒されると考えた。
私はそういう目で見てほしいと思っているが、未成年のうちは倫理感が先に立ち、しいちゃんもやり辛いだろう。
だから高校に入った頃から、私はしいちゃんを単なる親戚の人程度に接するようにした。
もし私が今でも好きだと言い続けていたら、しいちゃんも同居は危険だと思ったかもしれない。
この時も、本当は心の中は浮き立っていた。
祖母を亡くし虚無感に襲われていた私の心に、仄かな灯りか灯った。
こうして私としいちゃんの同居生活が始まった。
「おばあちゃんが…私、最後まで心配ばかりさせてたんだね」
「そんなこと言うな。大人が子供の心配をするのは当たり前だ。それにお前は勉強もできるし、家の手伝いもちゃんとするし、何よりおばあちゃんたちをとても大事にしていた。もっと我儘を言ったりしても良かったのに、反抗期もなく、ずっとおばあちゃんたちの自慢の孫だった」
勉強は嫌いじゃなかった。大学まで進学するかは決めていなかったが、勉強をして知識を身につけることは将来邪魔にはならないのはわかっていた。
それに、私が何か人から後ろ指を差されるようなことをして、おばあちゃんたちを悲しませたくなかった。何かあって、「やっぱり親のいない子は」とか言われたら、おばあちゃんたちが悲しむと思った。
子に先立たれて情けない。変わってやれるものなら、私が変わってやりたかった。
おばあちゃんたちが仏壇の前でそう言っていたのを何度か耳にした。
「実は友莉亜の両親が遺してくれた貯金と、生命保険金、それからじいちゃんたちが友莉亜のために遺してくれたお金と、二人の保険金で、かなりのお金がお前名義の通帳にある」
しいちゃんが私の名前が書かれた通帳を二つ取り出した。
「ひとつは菫さんたちが友莉亜のために掛けていた学資保険が入っている。そこに毎月おじいさんたちがコツコツ積み立ててくれていた。もうひとつは生命保険金やら諸々…これだけあれば、好きな大学に行ける」
毎月少しずつ入金があるものの、一度も引き出されることなく丸い数字が並んでいる。
「それで、この家を処分して、そのお金で都心でマンションを買おうと思う。足りない分はじいちゃんたちの保険金を使って」
通帳から顔を上げてしいちゃんを見る。
「オレの両親もさ来年仕事を引退して日本に戻ってくる。その時に住む用に部屋を用意してくれとも言われていてるんだ」
しいちゃんは祖母が亡くなる前からご両親にマンション購入について相談を持ちかけられていて、既にいくつか候補は見つけていると言った。もし良かったらその内で隣同士で買える物件を探すつもりだと言った。
「もちろんちゃんとした後見人はオレの両親だけど、まだ後一年は日本に帰ってこないし、一番友莉亜の傍にいるのはオレだから、頼りないかも知れないけど、オレと一緒に暮らすか?」
「しいちゃんと?」
私はドキドキし始めた心臓の鼓動がしいちゃんに聞かれるんじゃないかと、胸の前でぎゅっと拳を握り締めた。
「まあ、オレと一緒とか友莉亜は嫌かも知れないし、学校も変わることになるし、大変だろうけど、オレも仕事のことがあって…」
「いいよ」
「え?」
「しいちゃんがいいと思うなら、私はそれでいい」
「え、そうか…なら、その話で進める。明日すぐにとかは無理だから、まだ当分はここに住む必要はあるが、なにるべく早く引っ越せるようにするから、暫くはお隣に友莉亜のこと、頼んでおくよ」
「わかった」
友達と別れるのは寂しいが、しいちゃんと一緒に住めるということが私には重要だった。
高校に入ってからは、私はしいちゃんが好き好き攻撃をやめていた。
子どもの好きは信頼を寄せている相手にも言えることだが、成長してからものそれはもう異性として好意を抱いていると思われ、かえってしいちゃんに警戒されると考えた。
私はそういう目で見てほしいと思っているが、未成年のうちは倫理感が先に立ち、しいちゃんもやり辛いだろう。
だから高校に入った頃から、私はしいちゃんを単なる親戚の人程度に接するようにした。
もし私が今でも好きだと言い続けていたら、しいちゃんも同居は危険だと思ったかもしれない。
この時も、本当は心の中は浮き立っていた。
祖母を亡くし虚無感に襲われていた私の心に、仄かな灯りか灯った。
こうして私としいちゃんの同居生活が始まった。