押しかけ婚〜あなたの初恋相手の娘ですが、あなたのことがずっと好きなのは私です
「今年の内に母さんだけ早く帰国するって」
「え、真奈さんが?」
真奈さん・・しいちゃんのお母さん。趣味がたくさんあって、とても行動的でさばさばした人。
いつまでも若々しく、おばさんと呼ぶと怒られるので名前で呼んでいるのだけど、年に一回会う程度だった。
日本に帰国する時はお土産をいっぱい持ってきてくれて、私を本当の娘のようにかわいがってくれる。
旦那さんの孝嗣さんのことが大好きで、今でも新婚みたいに仲がいい。
確かにしいちゃんのお父さんは背も高くて活動的で、中年をとっくに過ぎてもお腹も出ていなくでダンディだ。
彼女も美容に気を遣い、若々しくてスタイルもいい。
「でも、孝嗣おじさんの仕事は来年いっぱいまだ仕事が残っているんでしょ?」
彼女が半年以上も旦那様を放っておけるとは思えない。
「オレが頼んだんだ」
「え?」
「オレが海外へ行ったら、友梨亜も他に頼る人がいないだろ?」
「・・・・それって」
「いや、出発はまだ決まっていない。けど、いつそうなるかわからないから」
「私、しいちゃんの夢の邪魔をしてる?」
認めたくは無いが、いくら他に身寄りがないと言っても、二十歳を過ぎ結婚もしていない男性が保護者のようなことをするのは難しいものがある。
遊びや仕事のことだけを考えていればいい他の人と違い、しいちゃんの人生の中で、勉強や仕事の他に私への責任のようなものが重しとして存在し、彼を縛り付けている。
「違う、友梨亜がオレの人生や夢の邪魔になんてなるわけがない。そりゃあ、菫さんとオレはいとこで、世の中にはいとこなんて滅多に会わない人もいるし、その子どもとなると血の濃さから言えば5親等で他人みたいなものだ」
『他人』その言葉がグサリと胸に刺さった。
私としいちゃんの関係について、法律上ではどうなっているのか調べたことがある。
いとこの子どもは男なら「従甥(いとこおい)」女なら「従姪(いとこめい)」、私から見ればしいちゃんは「従兄弟伯父」もしくは「従兄弟違い(いとこちがい)」とも言うらしい。
結婚はできるとは言え、親戚にしては遠い。そのうえ私たちの間には十二歳という年の差もある。
そして・・・・少し前、しいちゃんがお酒に酔って帰ってきた夜の出来事を思い出す。
「すみれ」
雄の欲望を顕にし、亡くなったお母さんの名前を無意識に呟いていた。
もうすでにこの世にいないお母さんの亡霊を、どうすれば追い払えるのか。
お母さんが嫌いなわけじゃない。
生きていればお母さんも37歳くらい。大学ではミスキャンパスに選ばれたくらいで、大学卒業後は大手百貨店の案内嬢をしていた。そこで外商担当のお父さんと恋に落ちた。
もし今も生きていたら、その美貌も翳りを潜め三段腹のおばちゃんになっていたかも知れない。
そうすればしいちゃんの百年の恋も一気に冷めたかも。
そう考えて、多分そうはならなかっただろうと思う。なられても困る。年をとるにつれ自分がお母さんにどんどん似てきたら、いずれ自分も同じおばちゃんになることを想像し、ぞっとした。
けれど、私が5親等の関係で十二歳も下であることが、すぐ傍にいながら私としいちゃんを大きく隔てる溝になっている。
「これから友梨亜の世界はもっとずっと広くなる。そろそろ二人の関係も変わってきて当たり前なんだ」
新しい学校では、仲のいい友達はまだ出来ていない。あいさつをしたり、他愛ない会話はするし、いじめられているわけでもないが、もう仲のいいグループがある程度できてしまっていて、そこに無理に入ろうとも思わない。短い学校生活の、教室という狭い空間にほんの一時一緒にいるだけの人の中で、仮初めの友情を育む必要も無い。
「母さんも海外生活が長かったから、父さんの引退後は日本でゆっくりしたいって言っているし、喧嘩ばかりしているよりはましだけど、いつまでも愛しているなんて親が言い合っているのは、いい歳して勘弁してほしいと思っている。ちょっと離れていた方がお互いにいいんだよ」
「そうかな。私はうらやましいと思うけど」
「それは友梨亜がまだ現実を知らないからだ」
恋に恋する子どものように言われる。たしかに私はまだ未成年だから、経験はない。
私がいつまで経っても恋ができないのは、しいちゃんのせいだ。
人生で人は何度人を好きになるんだろう。同性でも異性でも、皆何をどう反応して『恋』の認識するんだろう。
残念なことに私はずっとしいちゃんが好きで、他の人なんか入る余地は無い。
人を想うことが楽しいことばかりでは無く、辛いことだということも知っている。
「え、真奈さんが?」
真奈さん・・しいちゃんのお母さん。趣味がたくさんあって、とても行動的でさばさばした人。
いつまでも若々しく、おばさんと呼ぶと怒られるので名前で呼んでいるのだけど、年に一回会う程度だった。
日本に帰国する時はお土産をいっぱい持ってきてくれて、私を本当の娘のようにかわいがってくれる。
旦那さんの孝嗣さんのことが大好きで、今でも新婚みたいに仲がいい。
確かにしいちゃんのお父さんは背も高くて活動的で、中年をとっくに過ぎてもお腹も出ていなくでダンディだ。
彼女も美容に気を遣い、若々しくてスタイルもいい。
「でも、孝嗣おじさんの仕事は来年いっぱいまだ仕事が残っているんでしょ?」
彼女が半年以上も旦那様を放っておけるとは思えない。
「オレが頼んだんだ」
「え?」
「オレが海外へ行ったら、友梨亜も他に頼る人がいないだろ?」
「・・・・それって」
「いや、出発はまだ決まっていない。けど、いつそうなるかわからないから」
「私、しいちゃんの夢の邪魔をしてる?」
認めたくは無いが、いくら他に身寄りがないと言っても、二十歳を過ぎ結婚もしていない男性が保護者のようなことをするのは難しいものがある。
遊びや仕事のことだけを考えていればいい他の人と違い、しいちゃんの人生の中で、勉強や仕事の他に私への責任のようなものが重しとして存在し、彼を縛り付けている。
「違う、友梨亜がオレの人生や夢の邪魔になんてなるわけがない。そりゃあ、菫さんとオレはいとこで、世の中にはいとこなんて滅多に会わない人もいるし、その子どもとなると血の濃さから言えば5親等で他人みたいなものだ」
『他人』その言葉がグサリと胸に刺さった。
私としいちゃんの関係について、法律上ではどうなっているのか調べたことがある。
いとこの子どもは男なら「従甥(いとこおい)」女なら「従姪(いとこめい)」、私から見ればしいちゃんは「従兄弟伯父」もしくは「従兄弟違い(いとこちがい)」とも言うらしい。
結婚はできるとは言え、親戚にしては遠い。そのうえ私たちの間には十二歳という年の差もある。
そして・・・・少し前、しいちゃんがお酒に酔って帰ってきた夜の出来事を思い出す。
「すみれ」
雄の欲望を顕にし、亡くなったお母さんの名前を無意識に呟いていた。
もうすでにこの世にいないお母さんの亡霊を、どうすれば追い払えるのか。
お母さんが嫌いなわけじゃない。
生きていればお母さんも37歳くらい。大学ではミスキャンパスに選ばれたくらいで、大学卒業後は大手百貨店の案内嬢をしていた。そこで外商担当のお父さんと恋に落ちた。
もし今も生きていたら、その美貌も翳りを潜め三段腹のおばちゃんになっていたかも知れない。
そうすればしいちゃんの百年の恋も一気に冷めたかも。
そう考えて、多分そうはならなかっただろうと思う。なられても困る。年をとるにつれ自分がお母さんにどんどん似てきたら、いずれ自分も同じおばちゃんになることを想像し、ぞっとした。
けれど、私が5親等の関係で十二歳も下であることが、すぐ傍にいながら私としいちゃんを大きく隔てる溝になっている。
「これから友梨亜の世界はもっとずっと広くなる。そろそろ二人の関係も変わってきて当たり前なんだ」
新しい学校では、仲のいい友達はまだ出来ていない。あいさつをしたり、他愛ない会話はするし、いじめられているわけでもないが、もう仲のいいグループがある程度できてしまっていて、そこに無理に入ろうとも思わない。短い学校生活の、教室という狭い空間にほんの一時一緒にいるだけの人の中で、仮初めの友情を育む必要も無い。
「母さんも海外生活が長かったから、父さんの引退後は日本でゆっくりしたいって言っているし、喧嘩ばかりしているよりはましだけど、いつまでも愛しているなんて親が言い合っているのは、いい歳して勘弁してほしいと思っている。ちょっと離れていた方がお互いにいいんだよ」
「そうかな。私はうらやましいと思うけど」
「それは友梨亜がまだ現実を知らないからだ」
恋に恋する子どものように言われる。たしかに私はまだ未成年だから、経験はない。
私がいつまで経っても恋ができないのは、しいちゃんのせいだ。
人生で人は何度人を好きになるんだろう。同性でも異性でも、皆何をどう反応して『恋』の認識するんだろう。
残念なことに私はずっとしいちゃんが好きで、他の人なんか入る余地は無い。
人を想うことが楽しいことばかりでは無く、辛いことだということも知っている。