君の甘さには敵わない。
先程からアイシャドウが何たらと言っているのはこの家に住む次男、金井 千晶(かねい ちあき)。
千晶さんは私よりも2つ年上の大学1年生で、金井家と家族ぐるみで仲の良い私の面倒を見てくれる優しい人だ。
肩まで伸ばした髪の毛先を金色に染めて赤色に輝くネイルをしている彼は、金井家きっての可愛らしいジェンダーレス男子である。
ファッションセンスの良過ぎる彼は最近になってメイクにも興味を持ち始めたらしく、その腕前は女子の私を難なく超えてしまっているから、少しばかり悔しく思うのも事実。
そんな千晶さんに先程から冷淡な態度をとっているのは、この家の長男である金井 颯(かねい はやて)。
来年の春に大学卒業を控えた彼は、私が幼い頃からよく勉強を教えて貰っていたお兄さん的存在で。
けれど、口が悪くて面倒臭がり屋ですぐに嫉妬する颯さんは、事ある事に家族と真っ向から対立している。
そして、結婚がどうのと訳の分からない事をほざいた男の名は福田 瑛人(ふくだ えいと)、彼は最早金井家の人間ではない。
私と金井家の三男と同じ高校で同学年、そして幼馴染みでもある彼は、夏休みが始まって家族と大喧嘩をしてしまったらしく、只今家出の真っ最中。
わざわざ金井家に来る必要も無かったと思うし早く帰ればいいのに、彼は我が物顔でこの家に居座り続けているから、多分もうしばらくは此処で居候を続けるのだろう。