アオハルリセット
一章 隠された気持ち


 洗面所の鏡で前髪を確認してから、紺色のブレザーに袖を通す。
 ゴールデンウィークが明けて、新しい制服にも慣れてきた。リボンを整えて、第二ボタンを外してみる。

 ——意外といけるかも。

 なんて口元が緩んでしまう。

 入学したばかりのときは、周囲の服装を観察しながら浮かないように心がけていた。カーディガンだけにせず、プレザーを着た方がいいのかとか、カーディガンを着るにしても何色なら悪目立ちしないかとか、スカートの長さとか。


 気を張り巡らすこと約一ヶ月。
 第二ボタンなら多くの人が外しているので、ちょっとドキドキしながらも外してみた。中学生のときは厳しい先生がいて禁止されていたことも、高校では看過される。

「お母さん、学校休んじゃダメ?」

 妹の詩の気怠そうな声が聞こえてきた。どうしたんだろうと耳を傾ける。

「具合でも悪いの?」
「うーん、具合が悪いわけじゃないけど、なんとなく休みたいなって」
「なんとなくなんてダメに決まってるでしょ!」

 お母さんに叱られて、渋々といった様子で「はぁい」と返事をした。そしてすぐに詩が洗面所に入ってくる。


「菜奈ちゃん、ご機嫌だね〜」

 身なりを整えていた私を上から下まで見て、詩がにやりと口角を上げた。

「私はサボり失敗しちゃったよ」
「なんとなくなんて言って休ませてくれるわけないじゃん」
「だよねぇ。は〜、部活面倒くさいなぁ」

 詩が学校を休みたかった理由は部活に行きたくないかららしい。

「部活大変なの?」
「まあ、二年になったから色々やること増えちゃって。サボりたいなぁって」

 テニス部の詩は中学一年生の頃から練習で忙しそうだった。詩は胸元まで伸びた黒髪を一つにまとめて、顔を洗う準備を始めたので私は横にずれる。


「そろそろ出ないと、待ち合わせ間に合わないんじゃない?」

 詩の指摘に慌ててブレザーの中のスマホを見た。
 もうすぐ家を出なければいけない時刻だ。

「わ、本当だ!」

 足早に洗面所を出て、玄関に置いていたカバンを手に取る。

「いってきまーす」

 家を出て、私は待ち合わせ場所である近所の公園まで向かった。
 少し息が上がりながら、スマホを見る。ギリギリ時間に間に合って胸を撫で下ろしていると、「おはよー!」と明るい声が聞こえてきた。

 顔を上げると、歯を見せながら元気に手を振っている千世の姿。
 私は口を大きく開けて茫然と立ち尽くす。


「え……えっ! ちょ、髪色!」
「染めてみちゃった〜!」

 千世の黒髪ロングが茶色に染まっている。しかも毛先がくるんとカールしていて、私は困惑しながらも指先で触れてみた。



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