アオハルリセット

 香乃と気まずい日々が続くかもしれないと覚悟していたけれど、翌日からは機嫌も直ったようで伊原くんのことに触れてくることもなかった。

 教室へ入ると、同じクラスの女子数人が興奮した様子で「菜奈ちゃん!」と話しかけてきた。

「おはよう。どうしたの?」

 最近下の名前で呼び合うようになった子たちで、こんなふうに朝から私のところに集まってくるのは珍しい。


「伊原と付き合ってるって本当?」

 伊原くんとの付き合いも隠してはいないので、いずれバレるとは思っていた。けれど直接聞かれるとは思っていなくて、戸惑いながらもぎこちなく頷く。


「ほら、やっぱり! そんな雰囲気だったもん!」
「うそー! おめでとー!」
「クラス第一号じゃん!」

 楽しげにはしゃいでいる彼女たちに唖然としてしまう。
 言葉からは嘘は感じられず、純粋に祝福されているみたいだ。それに、拍手までされたので、何事だと周囲から視線が集まるのを感じて、恥ずかしくなってきた。

「菜奈ちゃん、顔真っ赤!」
「こういうの慣れてなくて……」

 赤いと指摘されて両手で顔を覆うと、抱きしめられる。ひとりが抱きしめると、他の子たちも抱きしめてきて、ぎゅうぎゅうになってしまう。

「つ、潰れる!」
「やだ、かわいい!」
「慣れてない……そこがいい!」
「もー! みんな、からかってるでしょ!」

 苦しくなってきて、一生懸命腕を振り解いて脱出すると、まだ顔が赤いと笑われてしまう。

 新しい人間関係を築くのは苦手だけど、周りの子たちが明るくて社交的なおかげで、今は学校へくる楽しみが以前よりも増えてきていた。



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