アオハルリセット
その日の夜、千世からメッセージが届いた。
『これ、香乃の転売アカウントっぽい』
「えっ?」
文面を見て、声を上げてしまう。すぐに画像が送られてくる。アイコンは空の画像で、自己紹介欄には特になにも書いていない。
これが香乃だという確証が私には得られなかった。
——あれ?
これも空のアイコンだ。偶然かもしれないし、アイコンを空にしている人なんてたくさんいるはず。たまたま似ているだけで、私が過剰に反応してしまっているだけだ。
『四月に遊んだときに、香乃のスマホの通知が見えちゃって。それがこのフリマサービスのアプリだったんだよね』
『でもどうして千世はアカウントまで見つけ出せたの?』
『〝トワのオンラインイベントチケット〟にコメントが付きましたって通知だったんだ』
気になって千世がフリマアプリで検索をかけると、香乃らしき人物が様々なトワグッズを販売していたらしい。
『転売禁止のイベントチケットやプレミアグッズを元値の倍の金額で売ってた』
『けど、香乃ってトワ愛強いし、転売嫌がってたよね』
グッズはたくさん購入しているけれど、トワにかなりのめり込んでいる香乃が転売をしているなんて信じられない。
『私も最初はそう思ったけど、これ見つけて確信した』
次に送られてきた画像には、sold outとなっている商品。それは見覚えのあるものだった。
「これって……」
私と千世で購入して香乃の誕生日にプレゼントしたトワデザインの限定腕時計と、ネックレス。数量限定販売だったため、千世と販売と同時に必死にアクセスしてなんとか勝ち取ったものだった。
香乃が欲しがっていたものだったので、プレゼントしたときはすごく嬉しそうにわらっていたけれど、本心では欲しくなかったのだろうか。
『こんなコメントまでついてて、正直かなりショックだったんだよね』
次の画像を見てみると、「ほとんど使っていません。飽きたのでお譲りします」と書いてある。そういえば、一度しか香乃が身につけている姿を見ていない。
『それに商品の後ろに映り込んでる壁紙見て』
商品の背景を拡大してみると、画質はかなり荒いけれど薄紫の小さな柄が見える。私は高校に上がる前に、香乃の家で撮った画像をカメラロールから引っ張り出す。
その日は、トワがコンビニとコラボしたお菓子を三人で購入した。中に入っているオマケのシールを千世は見事にレアを当てて、写真を撮ったのだ。
その背景と、転売している人の商品の背景の柄は確かに似ていた。けれど、画質の問題で完全一致とまでは言い切れない。
あげたのだから、そのあとで香乃がどうするかは自由だ。けれど、プレゼントにはしゃいでくれた香乃の笑顔を思い出して虚しくなる。
『私はもう香乃と切れたけど、菜奈はどうするか考えたほうがいいと思う』
香乃にとって、私たちってどんな存在だったんだろう。トワのグッズもたくさん購入して高値で売るなんて、一体何のために?
香乃がトワの熱烈なファンであることは間違いない。配信のたびに高額の投げ銭をしている。お年玉やバイト代だと言っていたけれど、まさか資金を稼ぐために……?
私は香乃のことをわかっているつもりだったけれど、なにもわかっていなかったのかもしれない。