アオハルリセット


「でもさ、こういう狭い界隈で揉めると後で香乃が苦しくならない?」

 千世が呆れたように指摘した。

 トワのリスナーはたくさんいるけれど、結構リスナー同士で繋がりがある人も多い。それに名前を変えてアカウントを作り直す人も時々いるので、関わりを切った相手と知らずに話しかけてしまうこともあるかもしれない。


「いや、繋がってる方が苦痛だし。相手の言動に問題があるんだから、我慢する方が損じゃん。自衛ちゃんとしないと」

 香乃が素っ気なく返すと、千世が顔を顰めた。

「合う合わないがあるのはわかるけど、それならミュートしたらいいのに」
「私は無理して人と繋がるとか無理なの」

 喧嘩が始まりそうな空気に内心冷や冷やとしていると、香乃が私の方を見て訴えかけてくる。

「てか、ああいう粘着質な人と繋がってると変なこと巻き込まれるかもしれないよ。ふたりも理有と切ったほうがいいと思う。ね、菜奈」
「え……っと、私はあんまりフォロワー整理とかはしないようにしてて……」

 なるべくなら人と切ったりはせずに穏便に過ごしたい。それにそこまで合わないと思った子も今までいない。

「菜奈は〝いい子〟だもんね」
「……そんなんじゃないよ」

 香乃の言葉にトゲがある気がして、ぎこちなく笑うことしかできない。
 そんな私の反応に、香乃は困ったように眉を下げる。

「ごめん、悪い意味じゃなくて。菜奈はいい子だから利用されないか心配なんだよ。なにか頼まれたりすると断るの苦手でしょ」

 中学生の頃から、頼まれごとをされると断りきれなかった。思い返すとたくさんの苦い記憶が蘇ってくる。

「あ〜、そういえばクラス委員決めるとき、みんながやりたがらなくて菜奈が押し付けられてたもんね」

 千世が話しているのは、中学三年生の頃の出来事だ。
 立候補する人がいなくて、誰かがふざけて推薦をすると相手が嫌がるため何度も振り出しに戻った。時間ばかりが過ぎていくため、先生が指名することになったのだ。

「あれ、先生も菜奈が断れるタイプじゃないってわかってたから推薦したよね。押し付けるとか酷過ぎ」

 人前に立つことが苦手なのに周囲からの圧を感じて断りきれなくて、半ば強引に決定された。結局教卓の前で仕切ることなんてできなくて、一緒の委員の男子にかなり助けてもらっていた。

「菜奈は優しいから頼みやすいんだろうね」

 いい子でも、優しいわけでもない。きっと押しつけやすいだけ。そんなことを言えず、言葉をごくりと喉の奥に落としていく。

 自分がないわけじゃなくて、自信がない。私の心の中にある考えや思いを口に出して、周りにどう思われるのかが怖い。これが私だからと主張する勇気もなくて、その結果クラス委員のときみたいに穴埋めとして押しつけられることも多々ある。

 こんな自分に嫌気が差す。どうして私は自分の気持ちよりも他人の目ばかりを気にしてしまうんだろう。

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