美雪
「信じられないわね。」
 あたしがため息をつくと、廊下から規則正しい足音がした。

「隊長。例の少女が目を覚ましました。彼女が言うには、保護時に見につけていた着物を着ていないとあの能力は使えないということなのですが…。」

 隊長と呼ばれた男があたしに微笑む。
 結構かっこいい。二十代後半くらいだろうか。

「乱暴なことをしてすまなかった。私は国の対テロリスト部隊の隊長なんだ。みんなには隊長と呼ばれているが、別に直人でいいからね。西藤くん、席を外してくれないか?」

 西藤が部屋から出ていく。
 隊長なんて言うから硬い人かと思ったら、気さくな人みたいだ。

「直人は軍人さん?」
「ああ。だが私達の組織はちょっと特殊だから、自衛隊でもない。」
 特殊?と私が首をかしげると、直人は困ったように笑った。
「私たちの仕事は、テロリスト達を捕まえるのではなく、殺すことなんだ。公にはなってないけどね。」

 あたしは始めて知る組織の存在を知って動揺を隠せなかったが、とにかく目の前にいるのは、やばそうな組織の隊長だ。
 あまり深く関わらないほうがよさそうだ。

「あの…あたしもう大丈夫なので…もう帰っ…」
「ところで、君の名前は何ていうんだ?」
直人が少し怖い顔であたしに聞いてきた。いきなりなんなのだろう?

「美雪です…。」
「苗字は?」
 本名を聞いて、あたしがここにいることを親に知らせる気だ。
 面倒臭くなってしまう。
「…親には連絡しないでください。」

 ああ、わかったと直人が軽く返す。よかった。言ってみるもんだ。
「なんで昨日あの公園にいた?」
 さっきの話だと、警察ではなさそうだが、国に雇われている人達に、私がやった殺戮を知られるとまずい。
 …もうバレているかも知れないが、言い訳をしなくては。

「…散歩です。」
「あんな時間にか?」
 直人の声はどんどん鋭くなる。

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