美雪
 少年は店を出て、袋に入った黒い皮のジャケットを満足気に見た。

 以前から、強そうに見える服が欲しいと思っていたのだ。

 さっき「ふくや」の店主が指差した雪山から、真冬の北風のような風が吹いてきた。

 今は夏だというのに、鳥肌が立った。
 少年はジャケットを羽織ると、体が急に温まり、力が湧いてくるような感覚を覚えた。
 今なら誰でも倒せそうな気がする、とさえ思えた。

 そして、少年は店主の話を思い出した。
 強大な力を持ちながら、ただ独りで眠っている雪女が理解できない、と少年は思った。
 そんな力があったら、自分の信じる正義のために、その力を最大限に使いたい。
 
 少年は雪山を正面から見据え、
「待ってろ雪女。周りのムカつくやつ、みんなぶん殴ったら・・・そっち、行くからな。」


 彼の目には復讐の炎が燃えていた。
 同胞を殺された恨みの炎だ。
 
 十七歳でありながら、彼はテロ組織の一員だった。
 
「手始めに…そうだな、兄貴だ。あの、裏切り者。」

 直也は拳を握り締め、雪山を背に歩き出した。
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