美雪
 しばらく歩くと、いつもの商店街に、見知らぬ店がオープンしていた。

 つい最近までここは空き地だったはずだ。

 入り口の横の看板には「ふくや」と書いてある。
「ふくや…?」

 ショーウインドウに真っ白なワンピースが展示してある。
 洋服店のようだ。

 それにしても、こんな時間にあいているなんて営業熱心だ。
 お金は持っていなかったが、なんとなくその店に入った。

カラン。

 店の入り口のドアについているベルが澄んだ音で響いた。

 店の奥の換気扇の下で、誰かがタバコをふかしながら本を読んでいる。
「おや、いらっしゃい。女の子なんて久しぶりだ。」
 店主と思われる男がくわえタバコを消して声をかけてきた。

 この男は今「久しぶり」と言ったが、この店はオープンしたばかりのはずだ。

 あたしは毎日散歩しているが、こんな所に店はなかった。
 でも、店の壁紙は何年も前から張ってあったと言わんばかりに、ヤニで薄汚れている。

 この店は、何か、おかしい。

 直感的に、そう思った。
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