午後11時、蝶にかける願い
 涼香を「すずちゃん」と呼ぶのは大学二年の彼女が今年から所属する研究室の先輩でありアパートの一室をシェアハウスしている磯田祐弥(いそだゆうや)だけである。
 祐弥はサークル終わりなのかサッカーウェアで涼香のもとへやってきた。彼はフットサルサークルの幹事で夕方に差し掛かる時間の活動に参加しているらしい。
 「磯田先輩……!」
 少し息を切らせた祐弥は、にっこりと笑って涼香に一枚の短冊を差し出した。
 「すずちゃん、七夕のお願いごと書こうよ!」
 涼香は突然のことに戸惑った。
 (こんな地味な私があのキラキラ集団の中に行くの……⁉︎)
 黒髪を一つに束ね黒縁の眼鏡に白いTシャツとジーンズというシンプルな格好の涼香とは対照的に、笹の近くに集まっている人たちは露出の多い服やフリルがたくさんの服、ピンク色や緑色、青色の髪をしていて誰もが目立っている。
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