午後11時、蝶にかける願い
 照明が消えたリビングには柔らかな月明かりが広がる。
 「あ、あそこにベガが……」
 暗い部屋に開いた大きな窓から見える夜空には、たくさんの星が光っている。
 涼香はキラキラとした明るい星を指差した。
 「ベガ?」
 「はい。あれが、こと座アルファ星です。えっと……織女星(しょくじょせい)、織姫ですね」
 星空を見る涼香の目はキラキラと輝いている。
 「さすが、物知りだね」
 「いえいえ……昔、父に教えてもらったんですよ」
 涼香は恥じらいを隠すようにはにかんだ。
 「じゃあさ、彦星はどこにあるの?」
 祐弥は涼香のすぐ隣に座り直す。
 「えっと……」
 彼の視線は天の川を渡る涼香の指に移る。
 「あの星です。わし座アルファ星……アルタイル。牽牛星(けんぎゅうせい)ともいいます」
 「あれがベガで、こっちがアルタイル」
 「はい」
 祐弥も涼香が指差すように空に手を向けた。
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