捨てられたひよっこ聖女の癒やしごはん~辺境の地で新しい家族と幸せライフを楽しみます!~
エピローグ

第1話



 リズはソルマーニ教会の厨房でタルト生地をせっせとめん棒で伸ばしていた。
 自分が聖女だと分かってから三ヶ月経ったがそれまでと生活は変わっていない。これまでどおり、聖学を勉強して雑務をこなし、美味しいご飯をみんなに振る舞っている。
 少し違う点は、自分の作ったお菓子を万能薬代わりにスピナの住人やシルヴァの隊員に配ることくらいだ。

 ドロテアに殺され掛けた一件以来、彼女とは一度だけ面会したことがある。
 聖力をすべて奪われてしまったドロテアは精神を病んでしまい、まともに話をすることができなくなっていた。

 美しかった黒髪は艶をなくし、雪のように白く滑らかだった肌は荒れて皺が入り、一気に老け込んでしまっていた。リズが話し掛けても、彼女は濁った瞳で見つめてくるだけでまったく反応がなかった。


 彼女にとって、聖女の地位は自分の存在と同義となるくらい価値があったのだろう。しかし、聖女となったリズからすればこの地位が執着するものではないように思えて仕方がない。

(叔母様とわかり合えることはないですけど、肩書きや地位によって築かれた自分の価値よりも、自分自身で見出し培った価値の方がよっぽど大切で素晴らしいことだと思います)

 肩書きや地位による価値は周りの評価に左右されてしまうため、その都度一喜一憂してしまう。しかし、自分自身で見いだした価値は自分のものさしだけで判断することができる。努力して高めていくことができる。

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