捨てられたひよっこ聖女の癒やしごはん~辺境の地で新しい家族と幸せライフを楽しみます!~
王都と地方では距離が離れているので今回のような聖杯が壊れたという情報は、地方の教会へ届くまでに時間が掛かるが、比較的安全な場所から教会本部の動向を探ることはできる。
(教会本部が私の死体を確認することはないと思いますが、万が一生きていることがバレたらことですから)
情報を得るためにも彼が地方の聖騎士団に所属しているなら、保護してもらっても良いのかもしれない。
一先ず、リズはクロウがどこに向かうのかを尋ねることにした。
「クロウさんの帰る場所はどこですか? ここからそんなに遠いですか?」
「帰る場所は辺境地のスピナだ。俺はスピナにある要塞で、第三部隊シルヴァの隊長をしている。そこの教会の司教とも仲が良いからきっと君の面倒は見てもらえる」
「た、隊長さんなんですね! ごめんなさい、そうとは知らずに失礼なことを言ったかもしれません」
「随分大人びているね。だけど君が気にすることはないし、これからはお兄さん呼びで良いから」
クロウがそう言うので、リズは彼のことを『お兄さん』と呼ぶことにした。
(辺境地スピナなら、彼についていっても大丈夫そうです。下手に王都や近くの地方都市へ行くよりかは安全ですから)
スピナにある教会といえば聖国の最東端にあるソルマーニ教会だ。あそこなら教会本部の人間は滅多に訪れないし、交流もほとんどないはずだ。
考え抜いた末、リズはクロウと共にスピナへ行くことにした。
「分かりました。私もお兄さんと一緒にそこへ行きます」
「それは良かった。――ところで、名前を聞いてもいいかな?」
「あ、えっと。私の名前は……リズ、です」
今から行くところは東の辺境地で滅多なことがないと教会本部の人間は訪れない。だが、本当の名前を口に出すのはちょっぴり怖い。
念のためリズは両親から呼ばれていた愛称を本名として使うことにした。