捨てられたひよっこ聖女の癒やしごはん~辺境の地で新しい家族と幸せライフを楽しみます!~
本来なら聖女は数年ごとに次の聖女候補が現れて交代する。
聖女が現れると聖物である羅針盤に嵌め込まれた瑠璃が輝き始め、次期聖女となる乙女がいる方角に向かって青い光を飛ばすとされている。しかしこの十年間、羅針盤の瑠璃が輝くことはなく、乙女がいる方角を指し示すこともない。
次期聖女となる乙女が現れると、大司教が真っ先に王族へ報告をし、教会本部の聖なる乙女の訪れを告げる鐘楼の鐘が鳴り響くのだがそれもない。
「司教の言うとおりいつ次期聖女が現れてもおかしくはないと思います。それにリズは歳のわりに大人びていて聡い」
それもまた、聖女の資質なのだろうか。だとしたら彼女は素晴らしい聖女になるだろう。
「そういえば、アシュトラン殿がリズを見つけたのは樹海だと言っていましたね? 樹海は本来、人が寄りつかない場所です。いくらリズを殺そうとしたとはいえ、わざわざ樹海へ赴く親がいるでしょうか? 聖国民なら、あそこが妖精界の入り口であることは知っているはずです」
聖国民にとって樹海は一度入れば二度と出られない恐ろしい場所であると同時に、妖精界へと繋がる入り口がある神聖かつ崇高な場所――聖域となっている。
立ち入れるのは聖職者や聖騎士といった教会関係者だけで一般人は入ることを許されていない。さらに言うと、聖職者以外が罰を与えることは聖域を穢すことを意味するので重罪に値する。よって、信仰心の厚い聖国民がわざわざ樹海入りするのは不可解だった。ヘイリーが疑問視するのも当然だ。