ひなたぼっことかげぼうし

彼女が遺したもの

彼女が居なくなってから数日後、彼女の母親だという人が家を尋ねてきた。

彼女のベットの枕元から遺書が出てきたらしい。

会ってからまだ一年足らずの僕へ宛てた真新しい遺書だった。






光輝君へ



光輝君がこれを読んでいるということは、

きっと私はもう、光輝君の前には居ないかな。

そう思うと、ちょっと悲しくなっちゃう。

光輝君、違ってたらごめんなんだけど、

ぶっちゃけ私の事ちょっと好きだったでしょ?



病気の事、ずっと黙っててごめんね。

話したら、光輝君が悲しむんじゃないかって思ったら、

話せなくなっちゃった。

光輝君だって、好きな人が悲しむのは嫌でしょ?

でも本当は、光輝君と出会った時にはもう、

一ヶ月生きれるかどうか、

そんな感じでした。



気づいた?

そう、寿命、延びたの。

この遺書は、絶望の余命宣告から八ヶ月後に書いたもの。

本当はこんなに長く生きれなかったはずなのに、、、

光輝君と出会ったからかもしれないね。



あっ、今、「そんなわけない」って思ったでしょ?



そんなわけあるの!

光輝君と出会ってから、世界が変わったの。

生きるのが楽しくなった。

「明日も光輝君が来てくれるんじゃないか」

って考えたら夜も寝れないくらい嬉しくて、

ワクワクして、辛い治療も頑張れた。



こんなに長く生きれたのは、紛れもなく、

光輝君のおかげだよ。

出会ってくれてありがとう。



薄々気づいてるかもしれないけど、

私、光輝君のことが好き。

私の最初で最後の好きな人。

でも、生きてる間は言わないつもり。

だから、ここに書いておくね。



私、自分の名前が大嫌いだった。

光輝君と一緒だね。

「日向」なんて明るい名前してるのに、

病気のせいで日向に出たことがほとんど無かった。

私には全然似合わない名前だと思ってた。



でも、光輝君に

「小桜さんは、明るい、太陽みたいだね。」

って言われた時、すっごく嬉しかった。

日向に出たことは無いけれど、

性格だけは名前に近づけたかもしれないって。

ちょっとだけ自分の名前を好きになれたの。

光輝君のおかげだよ。



私が

「こうき君って、優しいよね。」

って言った時、

「ここに居る僕が、僕の全てじゃない。」

って光輝君言ったよね。

確かにそう。



でも光輝君は、あんなに嫌がってた下の名前呼びを許してくれてた。

私が半ば強制したタメ口も文句一つ言わずに使ってくれてた。

それに、私が話を持ち出すまで、

決して病気の事は聞かなかった。



私の前には、確かに、優しい光輝君が居ました。

それが光輝君の全てじゃなくても、

私は光輝君のそういう所が大好きです。



光輝君は、自分の名前が嫌いだって言ってたよね?

あと、性格も。

でも、私は光輝君の名前も性格も大好きだよ。



「光り輝く」って書いて「こうき」。

心の中の優しい光が輝いてる光輝君に、

ぴったりな名前だなって思った。

大好きだから、呼びたくなっちゃったんだ。



優しい人、人を思いやれる人。

静かだけど、頭の中では相手の事ちゃんと考えてる人。

相手に興味無いフリして、

本当はすっごく些細な事までちゃんと覚えてくれている人。

私を特別扱いしない人。

全部全部、私の大好きな光輝君。



光輝君が一生自分の事が大嫌いでも、

私は一生光輝君の事が大好きだよ。



一生がこんなに短くてごめんね。

好きの気持ちを素直に伝えられなくてごめんね。

光輝君の事好きになったのがこんな私でごめんね。

沢山迷惑かけてごめんね。



光輝君と過ごした時間は、

私の短すぎる人生の中で一番楽しい時間でした。

素敵な時間をありがとう。



本当は、ずっと光輝君の傍に居たい。

でも、それは、私には出来ません。

だから、私の分までどうか、

幸せになってください。



最期に好きになった人が光輝君で良かった。

死んでもずっと大好きです。

日向






書いた時に水が零れたのか、カピカピになった紙の上に落ちる涙。

インクが滲んだその遺書は、僕にとっては初めて明かされることばかりだった。

僕は彼女の事を何も知らなかった。

それでも、

「日向。出会ってくれてありがとう。僕も…僕も、

ずっとずっと大好きだよ。」
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