プリザーブドLOVE  ~けっして枯れない愛を貴女に~
 彼の後姿が遠ざかっていく。

 追いかけたかった。
 わたしも好きだと告げたかった。

 でも、喉元まで迫り上がってくるその言葉を必死でねじ伏せ、後ろを向き、改札を抜けた。

 悔やんではいない。
 この選択は絶対間違っていないはず。


 わたしはテレビの横の引き出しからいつものタバコを取り出した。

 またこれにすがる日々が続くのか。

 タバコを咥え、ライターを点けようとするが、ガス欠なのか火花を散らすだけで一向に火がつかない。

 わたしは役立たずのライターを放り投げ、タバコを口から引き抜き、手で握り潰した。

 煙と一緒に吐き出してしまいたかったのに。

 田所が残した、彼の唇の、柔らかくて切ない感触を。
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