花婿候補は完璧主義の理系御曹司!? 〜彼の独占欲には抗えません

私がいる研究所は三鷹にあるのだが、迷子になりそうなくらい敷地が広く、オフィスのある建物から正門までは二百メートルくらい距離がある。
「ここを走るのはキツイ」
カツカツと靴音を響かせて正門の方に歩いていたら、突然大粒の雨が降ってきて結局走る羽目にーー。
「今日天気予報雨なんて言ってた？聞いてないよ」
ブツブツ文句を言いながら走るが、パンプスがおろしたてのせいか足の踵が痛くなってきた。
おまけに普段の運動不足がたたり、足がもつれて前のめりになる。
「あっ！」
転ぶと思って思わず目を閉じたら、誰かが私を抱き留めてくれた。
「大丈夫？」
どこか単調なテノール調の男性の声が耳元でしてパッと目を開けたら、目の前には誰かの胸板があった。
一体誰？
ゆっくりと顔を上げると、メガネをかけた若い男性が地面に転がった紺色の傘を拾い上げていて……。
えー、この人は誰だっけ？