花婿候補は完璧主義の理系御曹司!? 〜彼の独占欲には抗えません
スマホのメッセージを見て席を立つ一之瀬さんに岡本さんが軽く手を振る。
「中間管理職も大変だねえ。ここの支払いはいいから行けよ。所長せっかちだから」
私も一之瀬さんにペコリと頭を下げると彼は店を後にした。
私と岡本さんも五分遅れて店を出るが、食事代は彼が「昨日の夜迷惑かけたから」と言って払ってくれた。
岡本さんと一緒に歩いてマンションに帰る。
途中研究所を横切ると、庭園の枝垂れ桜が満開になっていて思わず足を止めた。
「もう咲いてたんだ……って、四月ですもんね」
期末の処理が忙しくて見る余裕なかったな。
「俺も桜のことなんて忘れてたな」
フッと笑って岡本さんが桜の木をじっと眺める。
彼は私なんかよりもずっと忙しかったはず。
研究員の仕事もあるのに三月に社長に就任して、寝不足で倒れるくらい働いて……。
「桜見ると疲れを忘れますよね。この枝垂れ桜、私のお気に入りなんです。昔家がこの近くにあって、小中高とこの桜を見て登校して……。実は一二三の志望動機のひとつがこの桜を見るためで」
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