花婿候補は完璧主義の理系御曹司!? 〜彼の独占欲には抗えません
心の中でいつか迎えに来てくれるんじゃないかと淡い期待を抱いていた。
だが、十二歳の時、俺の引き取り先が決まって母に見切りをつけた。
俺には母などいない。だから自分の力だけで生きていく。
そう自分を納得させた。
引き取り先は一二三の社長の家。
岡本家には息子がいたが、研究開発には全く関心がなかったようで、一二三の創業者で当時は会長だった義理の祖父が俺を引き取ることに決めた。
義理の祖父はもともと研究者で、薬学がわかる人間に後を継がせたかったようだ。
だから、彼は俺に薬に関する全てのことを教え、実の孫以上にかわいがってくれた。
実母に捨てられ、人間不信になった俺に彼は愛情と生き甲斐を与えてくれたのだ。
ここは藤森花音の家ーー。
そう言えば、昨日彼女と会話をしていた記憶がうっすらある。
『岡本さん、寝るなら家で寝てください』
『……もう家だよ』
『だから、まだ家じゃないですよ』
それからなんだっけ?
額に手を当てて記憶を辿る。
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