15年目のホンネ ~今も愛していると言えますか?~
1.今も好きですか?



「時計、どうしたの?」

 いつもの腕時計を目の前に、違う時計をはめる夫に、聞いた。

「調子悪くて、止まっちゃうんだよ」

「そう。修理に出す?」

「ああ、うん。コレがあるから急がなくていいよ」と、腕を上げてそれを見せる。

「その時計、気に入ってるのね」

「え?」

「結婚前に使ってたの、でしょ?」

「ああ、初ボーナスで買ったから思い出深くて」



『お揃いで』ね?



 いくら良い物でも、二十年も前に買ったのなら、それなりにメンテナンスに出していなければ、とっくに動かなくなっていたのではないだろうか。



 ああ、メンテナンスしてたのか……。



「じゃ、行ってきます」

「うん、行ってらっしゃい」

 いつもの挨拶。

 いつからかはめられなくなった二つの指輪の横に、夫の腕時計。

 結婚した時に私がプレゼントした時計は、思い出(とき)を刻むことに疲れてしまったようだ。



 あの女性(ひと)との思い出(とき)は、重ねているのに……。



 夫は知らない。

 私が知っていることを。

 だから、言わない。

 拗ねたり怒ったり、そんな可愛らしさはとうに忘れた。



 でもね? 傷つかないわけじゃないの――。

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