15年目のホンネ ~今も愛していると言えますか?~
「Cセットは? お寿司じゃなくてミニ天丼だよ?」
「んーーー……」
釜めしのBセットは気分でないらしい。
夫は、時間があればあっただけ悩み続ける。
私は壁際の呼出しボタンを押した。
すぐに店員さんがやってきた。
「お決まりでしょうか」
「レディース御膳を黒ウーロン茶でひとつと――」と言って、和輝を見る。
「――天丼にミニうどんとわらび餅をつけてください」
「かしこまりました」
店員さんは注文を復唱して、立ち去る。
「デザート頼むの珍しいね?」
「お母さん、好きだろ? わらび餅」
「好きだけど、私のセットにもデザートついてるよ?」
「あんなちょっとじゃ、足りないだろ」
こういうところは、すごく気が利くのに。
ピコーンと甲高い電子音が聞こえた。
和輝のメッセージ受信を知らせる音。
「母さん、今来るって。わかるかな」
和輝がお義母さんに電話をかけ、店まで誘導する。
十五分ほどでお義母さんが到着した時、ちょうど私と和輝の料理が運ばれてきた。
お義母さんは私の斜向かい、息子の横に座った。
「あぁー、お腹空いたぁ」
「お疲れ様です」
「あら、美味しそうね」
「レディース御膳です」
「私もそれにしましょ。あ、飲み物は何?」
「これは黒ウーロン茶です」
「いいわね。私もそれで」
お義母さんの分を注文する。
店内は賑わってきていた。
「あぁ、疲れた」
おしぼりで手を拭きながら、お義母さんが言った。
和輝は大エビを口に入れる。
私は、自分の御膳を義母の前に押し移した。
「お義母さん、先にどうぞ」
「あら、いいの?」
「私、食べるの早いので」
「そうだけど……。ありがとう」
お義母さんがにっこり笑って箸を持つ。
私のお腹がぐぅっと小さく鳴ったが、聞こえてなかったようだ。
「これ、先に食べてたら?」と、和輝がわらび餅の小鉢を私に差し出した。
「わらび餅? 美味しそうね。このセットにはついてないの?」
「セットのデザートは杏仁豆腐みたいですね」と、私は御膳の端の小鉢を指さした。
「これだけ? わらび餅に替えてもらえないの?」
ダメでしょうね。
「和輝さん、私はいいからお義母さんに食べてもらって?」
「え? けど――」
「――ありがとう! 優しいわねぇ、柚ちゃん」
オーバーリアクションでお礼を言われ、私の笑顔も引きつる。
都合がいいんだから。
「あら? その袋、ロールケーキじゃない?」
お義母さんが手毬寿司を頬張って、言った。
「あ、そうです。先月は買えなかったんですけど――」
「――あまおうのでしょ? 美味しいのよねぇ」
「食べたこと、あるんですか?」
「ええ。この前の日曜日、夢乃ちゃんが持って来てくれたの。お昼には売り切れちゃうこともあるんでしょ? わざわざ朝一で買ってくれたみたいで。嬉しい気遣いよねぇ」
すみませんね、手ぶらでお邪魔して。
「たまのお休みなのにねぇ。若いのにちゃんとした子よねぇ」
すみませんね、若くないのにちゃんとしてなくて。