15年目のホンネ ~今も愛していると言えますか?~
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「お母さん、ダイエットしないの?」
唯一、家族が揃う週末の食卓で、由輝が言った。
因みに、「ダイエットしなきゃ」が口癖の私だが、息子から聞かれたのは初めてだ。
「なに、急に」と、私は油がバチバチいっている鍋から唐揚げを摘まみだしながら聞いた。
弾みで親指の第一関節に油が飛んだが、気にしない。
冷やすのは、飯はまだかと食卓テーブルで待っている三人に、この唐揚げを届けてからだ。
「お母さん、顔は悪くないんだからさ」
「だから、なにが言いたいの」
油きりのバットから皿に盛りつけた唐揚げをカウンターに置くと、和葉がテーブルの中央に移す。
「いただきまーす」
四人分のご飯と大根の味噌汁、キュウリの浅漬け、鶏の唐揚げ、ほうれん草の胡麻和え。由輝と夫の和輝の前には、昨日の残りの麻婆豆腐もある。
由輝は唐揚げにかぶりつき、和葉は取り皿にレモン汁を垂らす。和輝は味噌汁をすすった。
私は手を洗い、油が飛んだガス台を拭いてから、食卓に着いた。
あと一か月で中学三年生となる由輝は、とにかくよく食べる。
中学入学時に、卒業までにぴったりになるのだろうかと心配しながらも買った二サイズ上の制服も、既に着られている感はない。
「昨日――」と、由輝は口をもごもごさせながら言った。
「――誰のお母さんが美人かって話してて」
まだ口に入っているのに、箸は既に次の唐揚げを刺している。
私は、まだ使っていない自分の箸で、和輝と和葉の皿に唐揚げを三つずつのせた。
「嵐ん家のお母さんが断トツだったんだけどさ」
「当たり前でしょ。愛華のお母さんてハーフだよ?」
嵐くんと愛華ちゃんの兄妹は、それぞれ由輝と和葉と同じ年で、友達だ。
そして、彼らの母親がフランスだかイギリスだかと日本のハーフであることは、保護者の間でも広く知られていること。ついでに言うと、元モデルらしい。
「当たり前だけど、うちのお母さんの名前は出なくてさ? 当たり前だけど」
失礼な息子だ。
当たり前、を二度も言った。
「で、俺は考えた。そして、わかった。お母さんは痩せたら少しは綺麗になる!」
「お行儀が悪い!」
唐揚げを刺した箸をブンブン振る由輝に、ピシャリと言う。が、全く気にされない。
「だって、結婚式の写真とか、別人じゃん! 今の半分くらいでさ? お父さんが抱っこできるくらいだったんだろ?」
ああ、そんなこともあった。
もう、十五年も前のことだ。
「祖母ちゃんも言ってたし。この頃は細くて可愛くて素直ないいお嫁さんだった、って」
すいませんね!
太くて可愛くなくていい嫁じゃなくなって!!
心の中で姑に毒づく。