15年目のホンネ ~今も愛していると言えますか?~
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「いらっしゃいませー」
自動ドアが開き、検品中の箱から顔を上げた。
見覚えのある女性がじっと私を見ている。
見覚えのあるコートにバッグ、ヒール。
女性はきっと、私で間違いないのかを確認しているのだろう。
「いらっしゃいませ」と、もう一度言った。
他に言葉がなかったから。
うまく笑えていたかは、自信がない。
そして、箱に視線を戻した。
「あの……」と声をかけられ、顔を上げる。
今、店内には私しかいない。
背筋を伸ばし、真っ直ぐ私を見て、女性は言った。
「か――永吉さんの奥さまですよね?」
やっぱり、気づいたか……。
「はい」
「私、仕事でご主人にお世話になっております。広田響子と申します。先週、地下でお会いしたんですけど――」
「――はい」
憶えてますよ、もちろん。
彼女はコツコツとヒールを鳴らして、レジに近づいた。
その姿は、私が憧れた二十年前と変わらないどころか、更に大人の女性の凛とした雰囲気が加わって、益々綺麗だ。
その上、透き通るような高めの、可愛らしく柔らかい声。
なにからなにまで、私とは違う。
「お仕事中にすみません。でも、どうしても気になって――」
「――何がでしょう」
なぜか、無性に苛立った。
知らん振りしてくれたら良かったのに。
わざわざ私に、何の話があるのか。
「ずっと、このお店にお勤めですよね」
「はい」
「私がずっと、斜め向かいのマンションに住んでいること、ご存じですよね?」
「……はい」
少しだけ迷って、嘘をつく理由が見つからなくて正直に答えた。
「私がご主人と一緒に暮らしていたのも、知っているんですよね?」
私はグッと唇を噛んだ。
無意識に、エプロンを握ってしまう。
聞いてどうするの?
二十年近く前のことを、今更、どうして――。
それに、夫の元カノに質問攻めされている理由もわからない。
声に出して返事こそしなくても、私の表情で分かったのだろう。
広田さんは、急に唇をわななかせ、今にも泣きそうな表情に変わる。
「私、奥様が、その、なにか誤解なさっているなら、その――」
「――なにも、していません」
自分でも驚いた。
自分の声の、冷たさに。
ただ、明らかに後ろめたいことがありますと言わんばかりに動揺するから、ついキツイ口調になった。
言葉を遮ってそう言われ、広田さんは目に涙さえ浮かべているように見える。
「あの――」
「――誤解なんてしていません」