15年目のホンネ ~今も愛していると言えますか?~
4.逞しさってなに?
「ただいま」
玄関からの声に、子供たちが茶碗を持ったまま振り返る。
「え!? お父さん? 早くない?」
広田さんから今日のことを聞いたんだろうな、と思った。
今も連絡とり合ってます、って言ってるようなもんなのに。
私は立ち上がり、和輝の食器を出す。
「ただいま」
リビングに入ってきて、もう一度言う。
「お帰りなさい」
子供たちが口を揃えて言った。
「お帰りなさい」と、私だけ別に言った。
「お父さんがこんなに早いの珍しーね!」
和葉の言う通り、午後六時が定時の和輝が六時半に家に帰るなど、初めてかもしれない。
「出先から帰って来たから」
広田さんと一緒だったのね。
勘ぐりたくないのに、そうせずにはいられない。
和輝は鞄を床に置き、ジャケットを脱いだ。ネクタイを解いてワイシャツの上の方のボタンを外す。
そこで、気づいた。
腕時計をしていない――。
やっぱり、広田さんと会っていて、昼間のことを聞いたのだろう。
食卓の定位置に座った夫が、私をじっと見た。
心臓が急加速する。
私は何も悪くない。なのに、広田さんを泣かせたことを責められるのではと思ってしまう。
「お母さん、今日――」
「――とんかつ、だよ」
「そうじゃ――」
「――もうないの? とんかつ」
和輝の正面に座る由輝が言った。
ガス台から、由輝の顔は見えない。
「お母さんの食べていいよ」
「サンキュー! あ、キャベツは残しといてあげるからね」
「野菜も食べなさい」
とんかつは、私と和葉が一枚、和輝と由輝は二枚揚げるのだが、最近の由輝は足りないようだ。
翌日のお弁当用の一枚と合わせて七枚を揚げるとなると、なかなか時間がかかる。
熱した油に衣をつけておいた肉をゆっくり沈めると、ジュワッと油が音を立てた。
「ねぇ、お母さん」
今度は和葉。
「なに?」
「今度お母さんのお店に連れてって」
「なんで?」
「サイン帳とか、卒業のプレゼントとか買いたいから」
「ああ。うん、わかった」
年明けから、うちの店でも卒業シーズンに向けて、サイン帳やプチギフト用のメモ帳やハンカチなんかを仕入れた。
今は、新学期に向けたノートや筆記具を仕入れている。
「和葉はお母さんの働いてる店、行ったことあるのか?」
「あるよぉ?」
「由輝も?」
「うん」
「そっか」
今頃、気が付いたのだろう。
夫は、私の職場を知らない。
最寄り駅や大体の住所は知っているはずだが、妻の勤め先として店を訪れたことはないのだ。
千切りキャベツの上に切ったとんかつを二枚のせ、ご飯とお味噌汁、キュウリの浅漬けと一緒に出す。
私は、由輝が残したキャベツにドレッシングをかけた。
由輝は既に食べ終えて、二階に駆け上がって行った。
「お母さん、肉――」
「――お母さん、韓国のりある?」
「あるよ?」