15年目のホンネ ~今も愛していると言えますか?~

 和葉に言われて、再び立ち上がる。

 韓国のりを持って戻ると、和葉のとんかつの皿が私の場所に置かれていた。

「あげる」

「キャベツ、食べなさい」

「お腹いっぱいなんだもん」

「そんなこと言って……」

 キャベツだけ残すのは許されないから、和葉はかつ一切れと一緒にキャベツを私に押し付ける。

 給食ではきちんと食べているようなのだが、私の千切りはあまり細かくないから嫌らしい。

 和葉は韓国のりの袋を開け、八枚中二枚をご飯と一緒に食べて、席を立った。

「ごちそうさまでしたぁ」

「お茶碗、下げてね」

「はーい」

 結局、私は大量のキャベツと、一切れのかつ、韓国のりでご飯を食べた。

「お母さん、肉足りるのか?」

 二人きりになって、和輝が聞いた。

 気を遣っているつもりなのだろう。

「これだけキャベツ食べたらお腹いっぱいだから」

 こうして子供たちの残した野菜を食べているのに、なぜ痩せられないのだろう。

 永遠の謎だ。

「お母さんの店って、S駅の近くなんだよな?」

「うん」

 きた、と思った。

 私が、和輝が知らないと思っていることを知っていると、彼は知ってしまった。

 今更ではあるが、なぜ結婚十五年目になって、と思う。

「そこって――」

「――和輝、印鑑作ったことあるよ」

「え?」

「私の店で、印鑑」

 正確には、印鑑の注文を受けて発注するのだが。

 あの時、和輝は広田さんと印鑑登録用の、見栄えのいい印鑑に相応しい字体を相談してた。

 その時の印鑑を使って、この家を建てた。

「なんで、言わなかった?」

 シャキシャキとキャベツを咀嚼しながら、考えた。



 なぜ、言わなかったのだろう……?



「言ったら、和輝は私と付き合わなかったでしょ?」と、キャベツを見ながら言った。

「そんなこと――」

「――元カノとよく一緒に行った店の店員なんて、嫌じゃない」

「それは……」



 ね? 嫌でしょ?



「どうしたの、急に。広田さんも何か心配してるみたいだったけど、私は別に誤解なんてしてないよ。今は、仕事の関係者なんでしょう?」

「うん」

「別に、私がどこで働いてたっていいじゃない。気になるなら、復帰してないし」

「そうだけど……」

 私の苛立ちを察したのだろう。

 夫が口ごもる。

 こんな風に投げやりな言い方をしたんじゃ、気にしてますって言っているようなものだ。

 けれど、ここで弱気になって黙ってしまう夫に、苛立ちは増すばかり。



 今も元カノと繋がっていて、元カノから話を聞いていつもより早く帰って来て、元カノから聞いた話が本当か妻に聞いて、事実だとわかったら、妻が不機嫌になったら黙るなんて、無神経じゃない?


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