15年目のホンネ ~今も愛していると言えますか?~

 その間にご飯と味噌汁をよそい、レンジによって中までしっかり加熱されたハンバーグと一緒に食卓に並べる。

「食べていー?」

 既に席に着いて箸を持っていながら、聞く意味はあるのか。

「どうぞ」

「あ、ソース!」

「はいはい」

 取り皿とソースと餃子のたれを食卓の中央に置く。

「いただきまーす」

 ようやく子供たちが静かになり、コロッケも色づき、キャベツの上にのせた。また、油が飛ぶ。今度は手の甲に。

 私は首を回し、ボキボキッと骨が鳴るのを聞いてから、餃子の様子を窺う。



 疲れた……。



 昼休憩の後、座ったのは運転中だけだ。

 冷蔵庫から麦茶を取り出すと、ティーパックが半分しか隠れない程度しか残っていなかった。

「なくなったら作ってよ……」

 はぁ、とため息をつきながらポットの中身を捨て、軽く洗ってティーパックを放る。



 疲れた…………。



 カウンター越しに食卓を見れば、既にハンバーグもコロッケもない。



 私はお茶漬けかな……。



 結局、餃子五つを和輝用に取り分けたが、残りは子供たちの胃袋に納まった。と同時に、和輝が帰宅した。

 今日も、早い。

 私が理由を聞く間もなく、子供たちが連日帰宅の早い父親に、やれミスったのか、やれ干されたのか、やれ会社が危ないのかと、ニュースやYouTubeの受け売りを混同し、私に一喝され、さっさと部屋に上がって行った。

 私は特大のため息をつきながら子供たちの食器を片付け、ちょうど焼き上がった生姜焼きと餃子を並べた。

「いつにも増して、騒がしいな」

 着替えた和輝が、呟きながら食卓につく。

「そう? いつもあんな感じだよ。最近は由輝の塾が休みだから余計に」

「ああ、そっか」

 和輝が食べ始め、さて自分のご飯はどうしようかと考えたが、お湯も沸かしていないし、味噌汁もあるしで、茶碗にご飯を山盛りによそい、冷蔵庫から納豆を取り出した。

 そして、いつもの和輝の隣の席ではなく、正面に座る。

「お母さん、まだ食べてなかったのか?」

「うん。今日はバタバタしてたから――」と、納豆を掻き混ぜながら和葉を店に連れて行き、帰りが遅くなったことを話した。

「生姜焼き、食う?」

 納豆ご飯と味噌汁だけの私に、和輝が聞いた。

「ううん。なんかもう、がっつりお米で十分」

 本心だ。

 炭水化物を抜くダイエットもあるというのに、山盛りの米を頬張っている私は、ダイエットが成功しないはずだ。



 卒業式のスーツ、着れるかな……。



「俺も納豆……食うかな」

 ぼんやりしていたら、和輝が言った。

「うん? あるよ」

 私は立ち上がり、和輝の背後を回り込んで冷蔵庫に取りに行く。

 カウンター越しに納豆を渡した。

「あ、からしもいる?」

 もう一度冷蔵庫を開けて、ドアポケットのからしのチューブを取り出す。

 ついでに麦茶のポットも出して、私と和輝のコップに注ぎ足した。

 ポットを冷蔵庫に戻し、席に座る。

「……お母さんは忙しいな」と、夫が納豆を掻き混ぜながら言った。



 そうよ。

 母親は忙しいの。

 誰にも感謝されないけど、頑張ってるの。

 知っているつもりでも、知らなかったでしょう?



 今夜は腰と肩に湿布を貼って寝ようと、思った。

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