15年目のホンネ ~今も愛していると言えますか?~
6.ひとりになりたい
〈愛華ちゃんのママが、愛華ちゃんを連れて実家に帰ったって、知ってる?〉
親しいママ友からそうメッセージがきたのは、もうすぐ和葉が帰って来るだろうという頃。
〈実紗ママ情報?〉
すぐに、ブルドッグがうんうんと頷いているスタンプが送られてくる。
思わず、ため息が漏れた。
もうすぐ卒業とはいえ、半数が同じ中学校に進む。
どうしてこんな噂を流せるのか。
〈愛華ちゃんが卒業式に出られないかもって聞いて、和葉落ち込んでる〉
〈うちも。てか、実紗ママ、愛華ちゃんママのことやっかみすぎ〉
今度は私が、クマが「だよね!」と指さしているスタンプを送る。
実紗ちゃんのお母さんはクラス役員なんかを積極的に引き受けていて、仕切り屋だ。
私は関わる機会もないからどうでもいいのだが、一緒に役員になったお母さんたちからは相当悪く言われている。
独身時代に受付嬢としてモテモテだったらしく、折に触れてその話題を持ち出すのが、ウザい。
その実紗ちゃんのお母さんが目の敵にしているのが、ハーフで元モデルで大地主のお嬢さんだという、愛華ちゃんのお母さん。
どこから仕入れた情報かは知らないけれど、ここぞとばかりに拡散しているのだろう。
この分だと、卒業式当日もその話と娘自慢で大忙しのはず。
穏やかに卒業を祝えないものだろうか。
「ただいまぁ……」
元気のない娘の声に、私は玄関に出た。
「おかえり」
「おかぁさん……。愛華、今日も休みだった」
「先生は? なにか言ってた?」
和葉が首を振る。
「実紗が、愛華のお母さんが浮気して出て行ったって言ってた」
「はぁ!?」
「離婚するから、愛華とはもう会えないって」
なんてことを娘に吹き込んでいるのか。
本当かなんてわからないんだから信じちゃダメだと言っても、和葉はすっかり気落ちして、晩ご飯もほとんど食べずに、早々に部屋にこもってしまった。
さすがに妹の様子を心配した由輝に聞かれ、私は原因を話した。ついでに、嵐くんから何か聞いていないかを聞く。
「俺が聞いたのは――」と由輝が話そうとした時、和輝が帰宅した。
今日も、早い。
私は和輝にも愛華ちゃんが休んでいること、和葉が落ち込んでいることを話した。どうせ、和葉と顔を合わせたら元気がないことに気づくだろう。
「で? 嵐くんはなんて言ってた?」
「日曜に親が大ゲンカして、その後でばーちゃんが怪我したって電話がきて、お母さんが心配して様子を見に行くことになって、お父さんは行ったらダメだって言ったけど、お母さんは怒って愛華と行っちゃったけど、明日には帰って来るって」
「え? そうなの?」と聞き返しながら、中学二年生の話術の酷さが不安になる。
「うん。なんか、ホントは今日帰って来るはずだったけど、東京は吹雪で飛行機飛ばなかったから明日になったって電話きたって」
つまり、実紗ちゃんのお母さんの言っていたことは、根も葉もない噂でしかなかったということか。いや、噂も何も、実紗ちゃんのお母さん自身が言い出して言いふらしていたのだ。勘違い、では済まされない。
「その噂を流した母親は、なんでそんなことを言い出したんだ? 全くのデマなら、笑い事じゃないんじゃないか?」
晩ご飯を食べながら聞いていた和輝が言った。
「あれ? でも、そもそも喧嘩してたっていうのは? お祖母ちゃんの怪我とは関係ないんでしょ?」
「うん。嵐ん家の親、結構よく喧嘩してるらしいよ。お父さんが束縛系なんだって」
「……」