15年目のホンネ ~今も愛していると言えますか?~
「少し、ひとりになりたいって言ってたの」
「ひとり……って、おか――柚葉はどこにいるんですか?」
「その前に、聞いておきたいことがあります」と言いながら、義母が四つ折りになった白い紙を広げ、俺の前に置いた。
「これ……」
一番上に和葉の丸い字で『お父さんとお母さんが、私のお父さんとお母さんになるまで』と書かれた紙は、妻の字がびっしりと並んでいた。
「和輝さん、女性問題があるの?」
「え?」
義母が指さす部分を読む。
『嫌いなところは?』
美人の元カノを今も名前で呼んでいる、美人の元カノとお揃いの時計を大事にしている。
「柚葉がひとりになりたいと言ったのは、このせい?」
「そうかもしれません……」
俺は昨夜、興奮して電話をかけてきた広田を、名前で呼んだ。一度だけ。
再会してから彼女を名前で呼んだのは、それ一度だ。
そのたった一度を、妻は聞いていたのか。
それを、再会してからずっとそう呼んでいると思ったのか。
「この元カノって、和輝さんが昔一緒に暮らしていた女性?」
「え?」
どうしてそれを――?
わかりやすく表情に出ていたのだろう。
義母は俺の答えを聞かないまま、話し始めた。
「柚葉が二十歳くらいの頃、必ず土日に仕事を入れるようになったの。それまでは、どちらかか、両方出勤したり両方休んだりできていたのに、土日祝日は必ず仕事に行くようになって、理由を聞いたのよ。そしたら、会いたい人がいるって話してくれたの。近所に彼女と住んでるサラリーマンで、時々お店に来るって。芸能人に憧れるような感覚だったんでしょうね。彼女と並んでる姿がすごくお似合いで格好いいって言ってたわね」
俺と広田が一緒に暮らしていた頃を見てお似合いだと思ったと、柚葉は言っていた。だが、わざわざそれ見たさに土日祝日に出勤していたほどとは知らなかった。
「しばらくして、休日が戻ったの。理由を聞いたら、彼女と別れて引っ越しちゃったからもう会えないんだと落ち込んでた」
義母にそんなことまで知られていたとは、反応に困る。
「ようやく元気になったと思ったら、外食や外泊が増えて、彼氏でもできたのかと聞いたら、憧れていた男性と付き合ってるって言うんだから、ホントびっくりよね」
義母はケラケラ笑うが、俺は表情筋が硬直してしまっていた。
確かに付き合い始めた頃の柚葉は、俺の休みに自分の休みを合わせていた。
いくら個人経営の文房具店で、店長が融通を利かせてくれると言っても、彼女の性格からして言いにくかったかもしれない。
しかも、その休みのほとんどを、俺と過ごしていた。
大丈夫、という彼女の言葉に何の疑いも持たず、外泊もした。
柚葉は当時二十一歳。
いくら成人していて学生でもないからといって、俺の都合で振り回してばかりでいいはずがない。
年上の俺がもっと気遣うべきだった。