15年目のホンネ ~今も愛していると言えますか?~
膝裏にベッドの端が当たり、カクンと膝が折れた。ひっくり返りそうになり、和輝が私の肩を掴んだ。そのままゆっくり、ベッドに座るように促される。
和輝は私の正面に膝をついた。
今度は彼が私を見上げる。
「あの時計は、本当に俺が初ボーナスで買ったんだ。ひとりで」
ひとり……で?
「広田と付き合い始めて初めての誕生日に、俺とお揃いの時計が欲しいと強請られた。けど、あれ、その頃の俺が付き合い始めたばかりの恋人へのプレゼントにって簡単に買える額のものじゃなくて、断ったんだ。そしたら、広田は怒って、自分で買ってた。だから、俺にとっては元カノとお揃いの時計って感覚が全然なかった」
作り話だと思えなくもない。
が、私は夫が、こんなに尤もらしい作り話をできる人じゃないと、知っている。
「広田から、柚葉が時計に気づいたって言われても、何のことだかわからなかったんだ。広田があの時計をしていることにも気づいてなくて。俺は、柚葉がくれた腕時計をいつまでも修理に出さないから怒ってるんだと……思ってたし」
それで、和葉の質問の後で修理に出したんだ……。
「私……は、広田さんと一緒にいるのを見た後で和輝が時計を替えたから……」
彼女への気持ちを思い出したんだと思った。
夫の手が少し戸惑い気味に、私の手に重なった。それから、やっぱり少しぎこちなく、握る。
「広田を名前で呼んだの、聞いてた?」
「……っ」
「あの時は、すごくイラついて、思わずって感じだったんだ。あの時以外、名前で呼んだりしてない。呼びたくもない」
夫の手に力がこもる。頭をもたげ、重なる手におでこをくっつけた。
彼の髪が手首をくすぐる。
「柚葉、根本的に勘違いしてる。俺は、広田には二度と会いたくなかったんだ。心底嫌いになって別れたから」
「え……?」
夫の息が手の甲に触れ、その熱さに驚く。
「俺は、広田に裏切られたんだ。取引先の部長と……不倫したから」
「……えっ!?」
不倫……!?
広田さんが?
和輝が少し頭を上げた。それでも、俯いたまま。
「柚葉は広田のこと、ふわふわした美人だって言ったけど、性格はすごくキツイんだ。男に負けたくない、ってよく言ってた」
「けど、この前は……」
私の前で、和輝との仲が誤解だと訴えた時、気が強いどころかその場に崩れ落ちそうなほど動揺し泣きそうになっていた。
「俺と別れた後、不倫相手のいる会社に移ったんだけど、ずっと不倫関係を続けていたらしい。俺と付き合ってる時から結婚する気はないって言ってたし、都合が良かったのかもしれないけど、十年以上もなんてびっくりだよな」
和輝はそれを、いつ知ったのだろう。
ふと気になった。
そんなに嫌いで別れたのに、再会して一緒に仕事をするうちに、昔話ができるようになったのだろうか。
夫はゆっくりと顔を上げた。
真顔で、私を見上げ、唇をキュッと結んでから、開いた。