15年目のホンネ ~今も愛していると言えますか?~
「昨日、広田に会ったんだ。どうして柚葉に会いに行ったり、いきなり電話してきて喚いたりしたのか聞いてきた。ごめん……な? こんな時に二人で会ったりして。けど、柚葉を迎えに来る前に、ハッキリさせたかった」
私は小さく頷いた。
「三年位前に、相手の奥さんにバレて訴えられたらしい。相手と別れて、会社もクビになって、奥さんに慰謝料を払ったって。やっとの思いで今の会社に入ったから、早く実績を上げたくて俺を頼ってきた」
「そんな、勝手な……」
「ホントだよな」と、和輝が渇いた笑みを浮かべた。
「ただ、俺に話を通してきた同期は別れた経緯とか知らないから、単純に昔のよしみで助けてやったらいいと思ったらしい」
「じゃあ、私のところに来たのは、また訴えられたら堪らないと思って?」
「そう。金はないし、転職ももう嫌だって。とことん勝手だよな」
そんな心配をするくらいなら、どうして既婚者である元カレを頼ったりしたのか。
いや、まさか元カレの妻が近所の店で働いているだなんて思いもしなかったのだろう。元カレと一緒に訪れたことのある店の店員だったなんて。
「俺は、今の広田の会社に見合った仕事を回してくれそうな会社をいくつか紹介しただけだ。それも、もう終わった。二度と、広田には会わない」
頷くと、夫は僅かに口角を上げた。
少しだけ、肩から力が抜けたようにも見えた。
「柚葉」
この部屋に入ってきてから、夫は私を名前で呼んでいる。
もうずっと、『お母さん』としか呼ばなかったのに。
「ごめん、な?」
「なに……が?」
彼の手が私を離れ、スラックスのポケットを探る。そして、小さく折り畳まれた紙を取り出す。
和輝はその紙を丁寧に開き、私の手に握らせる。
「読んで」
『お父さんとお母さんが、私のお父さんとお母さんになるまで』
「これ……」
和葉の質問表。だが、私が書いたものじゃない。
『初めて会った時の感想は?』
可愛い。
『どっちが最初に好きって言ったの?』
俺。初めてキスした時。
『どこが好きで結婚したの?』
顔、優しい、真面目、穏やか、ご飯が美味しい、寂しがり、甘えたがり、心配性、柔らかい、温かい、挨拶をきちんとする、食べ方が綺麗。
『嫌いなところは?』
逞しくなっちゃったところ、自己評価が低いところ、言いたいことを我慢するところ、気を遣ってばっかりなところ。
また、逞しいって書かれた……。
『知り合ったきっかけは?』
友達の紹介。
『初めてのデートの場所は?』
ファミレス。
『初めてもらったプレゼントは?』
名刺入れ。
思い出したのね。
『生まれ変わっても結婚したい?』
絶対、する。
『プロポーズの言葉は?』
考え中。
なに、それ。
最後の答えに、ふふっと笑いが零れた。
「もっと、少ないと思ってたろ」
「うん」