15年目のホンネ ~今も愛していると言えますか?~
「付き合う時は確かに、あいつらに流された感があったけど、でも、俺言ったぞ? 付き合うことになった日の帰り、初めてキスした時、好きだって」
「そう……だっけ」
付き合えることになって、舞い上がって、緊張して、その上、キスされて、よく覚えていない。
「めちゃくちゃ緊張してたもんな、柚葉」
「そりゃ……」
ファーストキス、だったんだから。
「あれが初めてのキスだった?」
何の茶番だろう。
結婚して十五年目にして、初キスを語るだなんて。恥ずかしすぎる。
私は夫から視線を逸らし、手元の紙に移した。
「逞しいところが嫌いって、和葉にも言ってたね」
「聞いてたのか?」
「うん」
足腰が窮屈になったのか、和輝は立ち上がると私の隣に腰を下ろした。
「昔はさ、甘えたがりだっただろ? 柚葉。自分からは甘えてくれなかったけど、手繋ぐのとか好きだったし」
よく覚えてるな、と思った。
「出張とか仕事が忙しくて会えない日が続いた後で会えた時、泣きそうな顔してたり」
恥ずかしい。
そんな頃もあったが、今思うとただの甘ったれの小娘だ。
「嬉しかったんだよ。比べてたわけじゃないけど、広田はそういうの全然なかったし。自分の好みとか考えたことなかったけど、柚葉みたいな、守ってやりたくなるような子が好きなんだなって気づいたし」
今日の夫はよく喋る。
だから、余計に恥ずかしい。
「当たり前だけどさ? 結婚して子供ができて、今じゃ出張だって言っても、お土産よろしく、って普通に言われるし。平日の雪かきとか、俺を起こさないの……とかも、気を遣ってくれんのはありがたいけど、なんか……」
それは……つまり……?
「子供みたいなこと、言ってんな」と、和輝が苦笑いする。
「頼られなくなるのが寂しい……とか……」
寂しい……?
意外な言葉に、そっと夫の横顔に目を向けると、彼もまた私を見た。
そして、少し口角を上げ、すぐに戻し、唇を引き締め、開く。
「……思ってたけど、違うよな」
……何が?
「この前、柚葉の店で、店長が柚葉の代わりに重い荷物持ってたりするの見て、思った。柚葉を逞しくさせたのは……俺だよな。俺が、柚葉の優しさに甘えてたから、柚葉は逞しくなるしかなかったんだっよな」
……ホント、真面目。
「母親なんて、みんなそうだよ」
「それでも、さ」
自分の気持ちを言葉にせずに、悶々として、卑屈になって、逃げだした。
もっと責められても仕方がないのに、優しくて真面目な夫は、そうさせたのは自分だと責める。
彼の大きな手が、膝の上の私の手に重なる。
私たちの瞳には、互いを映したまま。
「ごめんな?」
「……なにが?」
「柚葉が甘えたがりで寂しがりなこと、ずっと忘れてて」
あんまり真顔で言うから、思わずフッと笑いが漏れた。
だって、三十八にもなって、二人の子供の母親になって、甘えたいとか寂しいとか、恥ずかしすぎる。