15年目のホンネ ~今も愛していると言えますか?~
 ずっと、聞きたかったこと。

 ずっと、聞くのが怖かったこと。

 隣にワゴン車が止まった。

 バックで入ったから、どんな人たちかはわからないけれど、きっと家族連れ。

 賑やかな声が聞こえて、遠のいていく。

「俺たちも行こう。席が――」

「――私とっ――」

 ハンドルから手を離し、ドアに手をかけた夫の服の裾を掴んだ。

「――結婚したこと、後悔してない!?」

 聞いてしまった。

 夫が振り向き、視線が絡む。

 思ったより、緊張していたようだ。

 勝手に涙が溢れ、夫の顔が揺れる。

 これこそ、今更だ。

 結婚して十五年も経って、後悔してるなんて言える人じゃない。

 きっと、なに言ってんだって、思ってる。

 けれど、これが私のホンネだ。

 十五年間、ずっと思ってたわけじゃないけど、ずっと忘れなかった不安。

「私のお父さんが……、け、結婚するんだろうな、なんて……言ったせいで……、私たち結婚しちゃったじゃない? だからっ、もし、あの時お父さんに見つからなかったら、和輝は私と結婚する気……にならなかった……んじゃないか……とか――」

「――そんなわけないだろ!」

 狭い車内に和輝の、苛立ちを露わにした声が響く。

「確かに、柚葉のお父さんに言われたのがきっかけではあったけど、仕方なくとかで結婚なんかしないだろ。俺は、柚葉のお父さんに聞かれた時、全然迷いなんかなく、もちろんです、って言えたんだ」

 付き合って一年ちょっとが過ぎた頃、友達の家に泊まると言っていた娘が夜、男と手を繋いで歩いているのを見た父は、その場で私を家に連れ帰った。

 親に嘘をついて男と外泊するなんてと怒鳴られた。

 父はお堅い考えで、外泊するような付き合いの相手なら、まずは挨拶に来るのが筋だと言うのだ。

 和輝は、私と父を追って来てくれた。

「結婚を前提に付き合ってるんだろうな!」と父が和輝に詰め寄り、和輝は「もちろんです」と答えた。

 和輝は真面目で責任感が強い。

 だから、あの時、私との結婚を決めたのであって、父に見つからなければ結婚する気はなかったのではないか。



 だって、それまでは一度も、結婚なんて話はなかった。



 付き合っていればいずれそういう話も出たかもしれない。

 プロポーズされて、OKして、親に報告して、っていう普通の流れで幸せを噛みしめられたかもしれない。

 けれど、私は申し訳なさが先だった。

 ずっと申し訳なく思っていたわけではないし、和輝が私や子供たちを大事に想ってくれていることはわかっているけれど、それでも、本当は聞きたかった。

 和輝の意思で、私と結婚したいと、言って欲しかった。

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