15年目のホンネ ~今も愛していると言えますか?~
「けど、本当にバレてなかったのか? 荷物とかお土産とかでバレそうじゃないか?」

「和輝、礼服がどこにしまってあるか知ってる?」

「クローゼットだろ?」

「カバーかかってる中、確認する?」

 確かに、クローゼットにはカバーがかかったままのものが何着かある。

 礼服だったり、畏まった時にしか着ないスーツなんかだが、中に入っているかなんて確認したことはない。

「旅行用のスーツケースの中、見ようと思う?」

 思わない。

 なるほど。

 お義父さんはお義母さんが葬式に行くのに礼服が残されていることにも気づかず、仕事から帰ってお義母さんが帰っていたら、使っていたスーツケースの中なんて見るはずもない。もっと言えば、韓流グッズが多少増えていても、それこそ全く気付かないだろう。

「柚葉が友達の葬式に行く時は、礼服のチェックをするようにするよ」

 思わず心の声が漏れ、妻が笑った。

 食事を終え、海沿いの旅館に泊まるつもりだと話すと、柚葉は拒んだ。

 理由は、高いから。

 客室が二十もない旅館で、スタンダードな部屋でも二十畳はあり、特別室となると一泊二十万。もちろん、そんな部屋には泊まれないが、俺としては、不安にさせた妻への詫びのつもりでいたので、困った。

 予約はしていないと知ると、余計に強く拒まれた。

 ひとまず、洋食店の店員に聞いた、美容室に行った。

 偶然にも予約のキャンセルが入ったとかで、すぐに席に通された。

 柚葉は、インフルで寝込んでいた母親が美容室に行って帰ったら和葉がおかしく思うからと気にしていたが、卒業式まで日がないのは確かだし、明日、家に帰る前に美容室に行ったことにすればいいと言った。

「和輝?」

「うん?」

 来るまで待っていると伝えて店を出ようとしたら、妻に呼び止められた。そして、腕を引かれて店を出る。

「どうした?」

「髪型……を変えようと思うんだけど、どう思う?」

 初めて聞かれた。

 柚葉は昔からずっと同じ髪型だ。

 脇くらいまでの長さの、ふわふわしたパーマ。



 ふわふわ……?



 そのフレーズが引っ掛かる。

『昔と変わらないふわふわの髪で、スーツ姿が様になってて、格好良かった』

 柚葉が広田のことをそう言ったのを思い出した。

 まさか、とは思う。

 だが、わざわざ俺に聞いてきたところを見ると、自惚れではないんじゃないだろうか。



 思ったままに言って、いいだろうか……。


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