15年目のホンネ ~今も愛していると言えますか?~

「過去の自分がどう思うかなんて、今となったらわからないし」

「そうね」

「今の俺は、嬉しいよ」

「……そう?」

「でも、過去に戻りたい」

「なんで?」

「もっと……優しくしてやりたかった」

 正直、憶えていない。

 必死過ぎて。

 でも、幸せだったと思う。

 そう感じたのは、翌朝だけれど。

「こんな話、恥ずかしいな」

「そうね」

「でも――」

 和輝が腕を緩め、身を屈めて私の顔を覗き込んだ。

「――夫婦だからいいか」

 十年以上ぶりでもわかるものだ。

 何となく、キスされるとわかって、目を閉じた。

 優しく唇が押し当てられ、忘れていた感触に胸が熱くなる。



 良かった。

 またこうして、抱き合えて。キスが出来て。

 ダイエット頑張っておけばよかった。

 でももう、いっか。

 恥ずかしいけど、やめたくないから……。



「良かった」と、キスの合間に和輝が言った。

「またキスが出来て」

 私の想いを、夫が口にした。

 同じ気持ちなんだと思うと、嬉しくて、涙が溢れた。

 和輝は目尻の涙を指で拭い、笑った。

「昔は柚葉の泣き顔も可愛いと思ったけど、今は複雑だな」

「……?」

 ずずっと洟をすする。

「笑っていてほしい」

 両手で私の頬をすくい上げる。

「俺が幸せにしてると思うと、頑張れるから」

「そうなの?」

「男は単純だからな。自惚れでも、なんでも、そう思っていたいんだよ」

「……そっか」

 そういうものか、と思った。

「だから、笑ってて。柚葉が笑ってるだけで、俺も子供たちも安心するから」

 和葉の夜泣きと由輝の赤ちゃん返りで大変だった時、母に言われた。

『どんなに大変でも、笑っていなさい。母親が笑っていれば、子供は安心するから』と。



 夫は一番手のかかる息子だって、本当かもね……。



 こればかりは、いくらなんでも話そうと言っても言えない。

「ん?」

 無意識に表情が緩んでいたらしく、和輝に問われる。

「……ううん」

 私は和輝のバスローブの合わせ目から覗く素肌に唇を寄せた。

「どうしても辛かったら、和輝の前では泣いてもいい?」

 お風呂で声を殺して泣くのは、苦しいから。

「バカだな。泣くほど我慢するな」

 そうか。

 思ったことを、思った時に吐き出せたら、泣くことなんてないのか。

「けど、今は、我慢させるかも」

「どうして?」

「久し振り過ぎて、痛いかも?」

「あ……」



 そういう『我慢』なら……。



「じゃあ、和輝も我慢してね?」

「なにを?」

「昔とは違う、私の身体に」

 頭の上で、夫がハハハッと笑った。

「体重と幸せの数値が同じならいいのにな」

「それはそれで、困るわ」

 磁石が引き合うように唇を重ねると、本能で憶えている彼の好みや癖に身体が応え、疼く。

 彼もまた、私の好きなトコロや悦ばせ方を思い出したらしく、久し振りだと思えないほど、自然に抱き合えた。

 女に生まれて良かったと思ったのは、人生で何度目だろう。

 初めて和輝に抱かれた時、子供たちを産んだ時、そしてまた、和輝に抱かれた時。



 ねぇ、和輝?

 私、今も、あなたを愛しています――。



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