15年目のホンネ ~今も愛していると言えますか?~

「やさしいところ……っと。あとは?」

「何個言えばいいの?」

「何個もあるの?」



 そう言われると……。



 私は数秒だけ考えた。

「細かく言えばいっぱいあるけど」

「細かくなくていいよ」

「そ? じゃあね、お母さんのご飯をちゃんと食べてくれるところ」

「ご飯?」

「そ。由輝も和葉も嫌いなものは残すでしょ? でも、お父さんはちゃんと食べてくれるし文句も言わない」

 自分に矛先が向くと思っていなかった和葉が、唇を尖らせる。

「お父さんは大人だからでしょ?」

「そんなこと言ったら、好きなところなくなっちゃうじゃない」

「んー……、わかった。ごはんを――」

 口に出しながら、書いていく。

「――ところ、っと。あとは?」

「そうねぇ。隠し事を――」と言いかけて、ギュッと唇を結んだ。

 嘘は言いたくない。

「――嘘をつかないところ」

「うそをつかないところ」

 和輝は、良くも悪くも嘘をつけない。

 良く言えば正直、悪く言えばバカ正直。

 私を傷つけないための優しい嘘すらつけない。

「次に、お父さんの嫌いなところ」

「嫌いなところ?」

「うん」

「それ、お父さんとお母さんが結婚した理由に結びつかなくない?」

「えー……。好きなとこだけじゃバカップルじゃん」



 どこで覚えるんだ、そんな言葉。



「たくさんあって言いきれないからパス」

「そんなにあるの?」

「嫌いなところって、好きなところと違って細かいの」

「例えば?」

「んーーー……」と、適当にいくつか言えばいいのに、本気で悩む。

「優柔不断なところ」

「ああ! 確かに」



 小学生の娘に納得されるとは……。



「あとは?」

「んー……。都合が悪いと笑って誤魔化すところ」

「ふんふん。あとは?」

「子供に甘すぎるところ!」

「え! 全然甘くないじゃん」

「じゃあ、お父さんに叱られたことある?」

「……ない」

 子供を叱るのは、いつも母親()

 父親は知らんぷりか、慰め役。

 ずるい。

「ただいまー」

 玄関から声がして、和葉がリビングのドアを見る。

「最後! 生まれ変わってもお父さんと結婚したい?」

「え……」



 生まれ変わっても……。



 リビングのドアが開き、和輝がネクタイを緩めながら入って来た。

「お帰りなさい」

「ただいま」

「お父さん、お帰りなさい。お母さん、早く!」

 和葉が私の答えを書いた用紙を腕で隠しながら急かした。

 きっと、私の答えは和輝には内緒なのだろう。

「もちろん」と私が答えると、娘はぱあっと顔を綻ばせた。

 和葉は一旦宿題を片付け、私はカレーを温めた。

 和輝用の辛口のカレーライスとレタスのサラダをテーブルに並べる。

「ビール飲む?」

「いや、いい」

 短い会話の後で、私は麦茶をコップに注いでサラダの横に置いた。

「お父さんに質問するから、お母さんあっち行ってて!」
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