15年目のホンネ ~今も愛していると言えますか?~
びっくりして振り返ると、和輝がスーツをかけたハンガーを持って立っている。
私はそれを受け取り、ポールにかけた。
正直に言って、三人目なんて考えもしなかった。
確かに年齢的には産めるだろうけれど、今の我が家に赤ん坊がいる生活が想像できない。
『二人で十分』と答えようとひゅっと息を吸い込んで、ハタと止めた。
過去を繰り返してはいけない。
振り返り、ベッドに腰かけてワイシャツのボタンを外している夫を見た。
「……欲しいの?」
「いや? けど、もしデキたら産んでくれるか?」
「え?」
「避妊は絶対じゃないだろ?」
ラブホテルに泊まった日からセックスはしていない。
久し振りの行為で、私も夫も二、三日は腰が怠かった。
もちろん、和輝がそうなのは気づいていても言っていない。そこは、男のプライドを守ってあげなければ。
でも、今までベッドの間に置いてあって、ベッドをくっつけた時に和輝側に移動されたローチェストの引き出しに、新しいコンドームが入っていることは知っている。
見つけた時、夫がこれからも私に触れようとしてくれていることが嬉しかった。
同時に、子供たちの目に触れないように気をつけなければとも思った。
「そうね」
もし、本当に子供を望まないのであれば、私もピルを飲むとか、避妊の確立を上げる方法はあるだろう。
けれど、夫が望んでいるのはそうじゃない。
「避妊していてもデキたら、産む」
だって、愛する人の子供だもの。
愛し合う、と言えば美しいけれど、その結果に望まない妊娠もある。それでも愛し合うのをやめられないのは、人間としての性だろうか。
発情期とか、子孫を残す本能とか、そんな動物的ではないセックスをするのは、きっと人間だけだと思う。
妊娠、出産を選択できるのも、きっと人間だけ。
だから私は選ぶと思う。
夫と愛し合うことで宿る命は、夫に愛された証。
望む答えを得られたからか、夫は少し照れ臭そうに唇を噛んだ。
ワイシャツを脱ぎ、Vネックのリブニットを頭から被る夫を横目に、私はこうして畏まった行事にしかつけないネックレスや指輪を外してケースにしまう。
「柚葉」
着替えを終えた和輝に呼ばれ、ウォークインクローゼットを出る。
ベッドに座る彼は、足の間の布団をポンポンと叩く。
「え」と、思わず低い声が出てしまった。
足の間に座れと言いたいのなら、恥ずかしすぎる。
「柚葉」
珍しく引かない和輝に、私は諦めて近づくと、手を引かれて強制的に座らされた。
後ろからギュッと抱き締められる。
隣の部屋では、娘が友達と交換したプレゼントを開いている。
悪いことをしているわけではないが、緊張感が半端ない。
髪を切ってから風通しの良いうなじに唇が押し付けられる。
「ちょ――」
「――広田、会社を辞めて実家に帰るって」
「え?」
「俺が紹介した会社と契約がまとまりそうだったのに、前の、不倫がバレて辞めた会社の人から相手にその話が伝わって、担当者を変えるなら契約すると言われたらしい」
「そんな……」
「自業自得、だけど」
確かに、そうだ。
それでも、広田さんを不憫に思うのは、和輝の気持ちが少しも彼女に残っていないとわかったからだろう。我ながら、単純だ。