15年目のホンネ ~今も愛していると言えますか?~
「たいしたことじゃないかなと思ってたけど、やっぱり気になるから聞くけど――」と、気になる前置きの言葉が、私のうなじをくすぐった。
「――柚葉、働いてる店、俺に隠してたよな?」
「……っ」
どうして改めて聞くの、と思った。
「今更だけどさ、付き合ってる時も俺が迎えに行くの断ってたし、復帰してからも店の名前と電話番号は教えてくれたけど、住所は駅までだったし。気づかなかった俺も、まぁ、マヌケなんだけど」
最初から、私は和輝に自分の職場の正確な位置は教えなかったし、仕事終わりに迎えに行くと言われても断って中間地点で待ち合わせていた。
退職して、パートとして復帰することになった時も、最寄り駅と店の名前、電話番号だけを教えた。店の名前も、哉太くんが継いで変わる前の店の名前で教えていた。
徹底していた。
正確な場所がわかって、そこが元カノと暮らしたマンションの目の前だとバレるのが嫌だった。
「最初はまぁ、わからなくもないけど、復帰する時は教えてくれても良かったんじゃないか?」
「…………」
「柚葉?」
無言で俯く私の耳に唇を寄せ、和輝が囁く。
「言えよ」
最近、恥ずかしいことばかりだ。
適当に流したいが、しっかり背後から抱き締められているこの状態では、それもできそうにない。
「……元カノを思い出して欲しくなかった……から」
恥ずかしさのあまり、最後はほとんど口の中で音が消えていた。代わりに、ぼやきがハッキリ言葉になる。
「何を言わせたいのよ……」
「恥ずかしいこと?」
「なんで!?」
「可愛いなぁ、と思って」
「はぁ? どこが――」
「――思い出したんだよ。俺、柚葉が恥ずかしそうにしてるの見ると、めちゃくちゃ興奮したなって」
「……っ!?」
もはや、言葉にならない。
ラブホでの夜から、和輝は随分と口数が多くなった。多分、二人きりの時に限って。
私の知っている夫ではないようで、ドキドキする。
付き合い始めの頃に戻ったようで、心臓が痛すぎる。
「……どうしちゃったのよ」
「ん? 嫌か?」
「そうじゃないけど……」
「子供たちに隠れてって、スリルあるな」
「楽しまないで!」
ハハハッと笑って、和輝が腕を緩めた。
そして、私の肩に手を置くと、振り向かせるように力を入れる。
無意識に目を閉じると、バンッとドアが開かれた。
焦るなんてもんじゃない。
よく、ドラマや漫画なんかでは、咄嗟に距離を置いて誤魔化すが、現実にはそんなに俊敏に動けないし、誤魔化すにも頭が回らない。
結果、近づいた顔を背けるので精いっぱい。
「俺はっ――!」
いつものことだがノックもなしに寝室のドアを開け放った息子は、今にも泣きそうな、それでいて怒ってもいるような複雑な表情で私たちを睨みつけて言った。
「――弟も妹もいらないからなっ!!」
へ――――っ!?
「あーーっ! お父さんとお母さんがラブラブしてるぅ」
「ラッ――ラブラブなんてっ――」
和葉の言葉に、私と和輝の体勢を思い出した私は、慌てて立ち上がろうとして前のめりになり、床に座り込む格好になった。