15年目のホンネ ~今も愛していると言えますか?~
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翌週の火曜日。
仕事の折り合いをつけた俺は、帰宅して柚葉に聞いた。
「明日、仕事か?」
「うん」
「何時まで?」
「二時」
「子供たちは何時に帰って来る?」
「三時半……かな? どうしたの?」
柚葉の店から帰ったら残り一時間。全く足りない。
「和輝?」
「ん?」
「お赤飯、硬かった?」
「いや?」
「難しい顔してるから」
「ああ……。いや、ちょっと……」
由輝が三杯も食べたせいで俺の白米がなくなり、冷凍庫にあった赤飯を解凍してくれたのだが、柚葉は申し訳なさそうだ。
和葉の中学の入学式の日に、柚葉のお母さんが炊いてくれた赤飯だ。普通に美味しい。
「明日はお弁当、いる?」
「ん? ああ……」
どうしようか、と考える。
「うん。頼む」
「うん?」
米を研ぐ音を聞きながら、甘納豆を噛んだ。
思春期の子供じゃなし、何を悶々と……。
思わずため息が漏れる。
「柚葉?」
「ん?」
「二人で飯でも行かないか」
「え?」と、柚葉の米を研ぐ手が止まる。
「二人で――」
「――ただいまぁ」
由輝の声。塾から帰ったのだ。
「おかえり」と言いながら、柚葉が玄関に向かう。
由輝には、なにかセンサーでもついてるんじゃないかと思う。
俺のライバルは息子か……。
「腹減ったぁ」
「食べたでしょ」
「勉強したから~」
「調子いいこと言って! 手、洗いなさい」
「は~い」
声が近づき、息子がリビングに入ってきて、俺と目が合う。
「おかえり」
「……ただいま」と言いながら、フイッと目を逸らされる。
なぜ不機嫌。
「お母さん、アイス食べていー?」
「和葉には内緒だよ?」
そう言われて、由輝はわかりやすく嬉しそうだ。
冷凍庫からソフトクリームを出してカップを開けると、米研ぎに戻って来た母親の口元に差し出した。
「え? お母さんはいいよ」
「いーから」
「……?」
柚葉が一番上のひと巻きを口に入れる。
「ありあと」
「ん」
満足したのか、由輝はソフトクリームを咥えながら階段を上がって行った。
「ママママ期っつーか、マザコンじゃねーか?」と、呟いた。
米を研いでいる柚葉には聞こえていない。
俺は立ち上がって彼女の横に立つ。
「……?」
首を傾げて俺を見上げる妻の唇をぺろりと舐めた。
「ちょ――」
「――ついてた、アイス」
嘘じゃない。
口の端にほんの少しついていたアイスを舐めとる。
柚葉は目を丸くしている。
俺自身、こんなことをするなんて驚いている。
息子相手に対抗心を燃やすなんてバカげている。が、今の由輝は、俺が遊んでやると言ってもママがいいと泣いて暴れた頃と重なって見える。
世の中の子供を持つ夫婦は、いつ、どんな風にセックスしているのだろう……?
まさか自分が、四十も過ぎてこんな悩みを持つとは思ってもいなかった。