ループ11回目の聖女ですが、隣国でポーション作って幸せになります!~10回殺され追放されたので、今世は自由気ままな人生を満喫してもいいですよね?~
(……そうだった。ここは、私がいていい場所じゃなかった)

 エヴァンドロの厚意で、ここに置いてもらっているだけだった。
 だから――彼がシアを連れて帰っていいと言えば、シアはここから出ていかざるを得ないのだ。
 それでも、帰りたくない。ここにいたい。

(……しかたない。こうなったら)

 とにかくこの場から逃げ出そう。数日なら、ベラのところに匿ってもらえると思う。それでも無理なら、この国を離れればいい。
 聖女としての力を思いきりふるおうとしたその時だった。

「なにをしている!」

 鋭い声がした。
 シアとの攻防戦を続けていた伯爵の手が止まる。こわごわとシアは顔を上げた。

「――エド?」

 不意に口をついて出たのは、街で知り合った友人の名前。こんなところに、彼がいるはずはないのに。
 けれど、こちらに近づき、シアを伯爵の手から引き離してくれたその姿。素早くシアの前に立ちふさがる背中は、エドのもののように思えた。

(ううん、それだけじゃない――この、声は)

 今までエヴァンドロの声を聞いたのは、ほんの短い時間だけ。それも、彼はささやくようにしか言葉を発しなかった。
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