ループ11回目の聖女ですが、隣国でポーション作って幸せになります!~10回殺され追放されたので、今世は自由気ままな人生を満喫してもいいですよね?~
「い、いいえ! 出ていきますわっ。ジェルトルーデ、行きましょう」
「……ええ、お母様」

 機を見るのに敏感な伯爵夫人は、放り出されるまでもなく自分の足で出ていった。そのあとを追うジェルトルーデは、シアの横を通り過ぎた時、ささやいてきた。

「――いい気にならないことね」

 ぶるりと思わず身を震わせたほど、低い声だった。これだけでは終わらせないと、予告しているような。
 三人を乗せた馬車が走り去るのを見送ってから、エヴァンドロはシアの方に向き直った。そして、深々と頭を下げる。

「来るのが遅れてすまなかった。聖女の両親と聞いた家臣が、離宮へ通してしまったようだ。あなたが望む相手であれば、いちいち俺の許可を得なくても通していいと事前に言っておいたものだから――家族ならいいと思ったらしい」
「……いえ、助けてくださってありがとうございました」

 伯爵に掴まれた腕が痛い。見れば、そこは掴まれたあとが強く残っていた。それ以上に強く痛むのは胸。

(――わかってはいたんだけど)

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