ループ11回目の聖女ですが、隣国でポーション作って幸せになります!~10回殺され追放されたので、今世は自由気ままな人生を満喫してもいいですよね?~
 シアの美しい所作に、相手は驚いたように目を見張った。それから慌ててシアに向かって頭を下げる。

「手を貸してくださって、ありがとうございます。聖女様」
「どうぞ、シアとお呼びください。聖女と呼ばれるのは――その、あまり気分のいいものではないので」

 国にいた頃、シアを聖女としてあがめているふりをしながらも、皆、陰ではシアのことをあざ笑っていた。あの頃のことを思い出したくないから、聖女と呼ばれたくはない。
 翼をたたんだグリフォン達は、思い思いの場所に散らばってくつろぎ始めた。魔物との戦いには、グリフォンは投入されないことが多い。制御できなくなると、大変なことになるからだ。

「……瘴気が、密集していますね」

 国境に設けられている高い塀の上から、シアはセアルド王国の方に目をやった。黒くもやもやしたものが地を這うように蠢いている。

(昔は、あの国に住んでいた。あの国で暮らしていたはずだった――けれど)

 母国を目の当たりにしたら、胸が苦しくなるのではないかと思っていたけれど、そんなことはなかった。自分は、意外と薄情だったのかもしれない。

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