あなたとわたしで紡ぐ愛
1、別離
『お前、オレんとこ来い』
高校2年生の夏。
私は、唯一の肉親だった兄を亡くした。
大雨の日、職場からの帰宅途中、交通事故に巻き込まれてのことだった。
駆け落ち同然で結婚したという両親は、私が物心つく前に父が病気で、私が10歳の時には母が職場で倒れそのまま帰らぬ人となり、それからは12歳年の離れた、当時社会人になりたてだった兄が私の親代わりをしてくれていた。
でもその兄も亡くなり、周りに頼れる親戚もない私はこの日、本当のひとりぼっちになった。
大好きな兄にもう会えない。
それは姿形を変えて抜けるような青空に昇っていく兄を見てもなお、到底簡単には受け入れ難い事実で。
葬儀が終わり、泣くことも、上手く呼吸をすることすらもままならないまま制服のスカートの裾を握り締め、虚な瞳にローファーの爪先をただ無意味に映すことしか出来なかった私。
そんな私に手を差し伸べてくれたのが、当時29歳だった渓くんだった。
兄の恋人と一緒に兄が亡くなってからの一切を請け負ってくれた、兄の同期で親友で、私を10歳の頃から知っている人。
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